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悲劇
【 行間に隠しページがあります[性描写(分類C)] 】


‖ 上記注意書きに危険を感じられた方はこちらからお戻り下さい ‖


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愛情系 004-1 / TYPE-S

赤い河
あかいかわ






  ギイ、と軋んだ音を立て訪れ慣れた扉を開く。
  わず 
  僅かな光さえ射さない彼の部屋。僕は、空間を閉ざ
し静かに歩を進めると中央に転がっ

 ている塊をじっと見下ろす。
                                  
 ゆか
  彼は皺だらけになった白いワイシャツと濃い色のズボンを纏い、何もない床の上にぼん

 やりと横たわっていた。相変わらずの細い腕を真横に投げ出し、放心しているかのような

 虚ろな眸でただ天井を見つめている。

  僕が傍で膝を突くと、ゆっくりと一度だけこちらを振り返り震える右手の甲で両の眼を
                         
  だんせい
 覆った。蝉の声が遠く聞こえる闇の中、抑揚のない二つの男声が響く。

 「――…また…見たんだ……」

 「――“例の夢”?」

 「…そう、何度見ても慣れない……思い出しただけでぞっとする。この右手に……見憶え

 のあるナイフがきつく握られていて、何故かそれは白い包帯で何重にも堅く縛り付けられ

 てるんだ。どんなに力を入れて外そうとしても、…――外れないんだよ。それどころか、
 ほど 
 解こうとすればする程拘束はきつくなっていく。

  そんなことをしていると来なければいいのに“彼”が……“彼女”が、僕の目の前に現
     
 あと
 れて…――後は、もう血の海さ。……解るだろう?」

 「……ああ……」

 「そんなことしたくないんだ。本当に……僕はそんなこと望んじゃいないんだよ。なのに

 …――あぁ、どうしても忘れられないんだ、あの厭な感触が……人の肉を貫く、あの厭な

 感触が……」
   
 いしおかくん
 「――石岡君」

  僕は彼の瞼を覆う右腕をゆっくりと外すと、その軽い身体を優しく抱き起こした。罪の

 意識に潤む双眸を真っ向から捕らえ、諭すような口調で言う。

 「それは“夢”だ。このことについては、もう何度も順を追って説明したろ……?」

 「でも一度や二度じゃない……僕はおかしいんだよ、恋人や家族や、友人や……そんな大

 切な人ばかりを、ズタズタに傷付けて……――…どうかしてる……」

 「泣くなよ石岡君、全部夢だ」
                     
 みたらい
 「僕は殺人鬼なんだ、いつかは君も――…厭だ御手洗、ここから逃げて……」

 「大丈夫だよ」

 「御手洗…っ、…君まで殺したくない、お願いだから……」

 「何を言ってるんだ、僕は死なないよ。――大丈夫だ。大丈夫だから……」

  僕の両肩を押し抵抗を示す彼の背を身体全体で抱き締めた。彼の哀しみが心に流れ込ん

 でくる。
                         
 まみ
  あぁ――泣きたいのは僕の方だ。叫びたいのは、罪に塗れているのはこの僕の方なのに。

  恐怖に怯え、震える身体――彼を鎮める方法を、僕は他に知らなくて。

  そっと、支えていた四肢を横たえた。柔らかな髪をさらりと撫でる。

 「――楽にしてあげるよ。すぐだ……」

 「…ん、……」

 「信じて……」

  僕は言い聞かせるように囁いた。蝉達の騒ぐ声が、遠く聞こえる。





    
**********




    
 よご
  情事に汚れた身体を清潔な汲み湯で洗い流し、彼を平穏な眠りに就かせた。そして僕は

 二人の残した逸楽の余韻を一つ残らず始末する。

  何が残っていてもいけないのだ。再び彼が目醒めた時、自分達の間に特別なことは何も

 起こらなかったのだと信じ込ませることが出来なければ――

  僕は部屋を出ると音を立てぬよう扉を閉めた。俯けていた顔を前方へ向け、ゆっくりと

 双眸を開く。同時に意識へと飛び込んでくるのは、光に充ちたリビングと遠くで騒ぐ蝉の
    
  キッチン       ひら
 声――僕は厨房へ向かうと薄く開いていた窓を閉め、流し台の中にある血塗れの包丁を見

 下ろした。
   
 
  ――柄にはまたべったりと彼の指紋が付いているのだろう。…苦い溜め息が洩れる。

  僕はテーブルの上に投げ出された新聞記事を一瞥すると、それを手慣れた仕草で屑入れ
  
 ほお 
 へと放り込んだ。

  どこの編集者が死のうが刑事が死のうが大女優が死のうが僕達には関係ない――あれは
    
ゆめ
 彼の“悪夢”だ。



  ――そう、彼は狂ってる。僕がそうさせてしまった。真実から目を背け日本を離れた僕

 を想い、独りで悩み苦しみ続け――彼は、二人の共同生活の存続に異を唱える者を全て切

 り刻むようになってしまったのだ。世界的大女優の死に疑問を感じ僕が帰国した時には、

 もう何もかもが手遅れだった。

 『弟を殺した夢を見た』

 『両親の悲鳴を近くで聞いた』

  初めはただの夢だと思っていたのだ。けれど――

 「……ごめんね、石岡君」

  全ての事情を知った時――彼の殺意の正体に見当が付いた時――僕はこんな現実を心の

 どこかで嬉しいと思った。

  単なる寂しさからかも知れない、もしかしたら僕の行動が傷になり強度の人間不審に陥

 っているせいなのかも知れない。それでも僕は――彼を狂わせた原因が自分であることを

 素直に嬉しいと感じてしまったのだ。

  何があっても彼を守ろう――この想いだけは、出逢った頃から変わらない。

 「……何人殺してもいいよ。そうしなければ君が生きていけないと言うのなら……僕は何

 度でも夢の後始末をしてあげる。だから……」



  ――せめて夢の中でぐらいは、幸せでいてくれよ



  僕は素足の上に涙を落とし、彼を苦しめ続ける現実を嘆いた。

 “運命の糸”と呼ばれる二人の絆は、赤い、血の色をしている――











風邪で凄い寝込んでて、でも眠れなくて、退屈で――…そんな時に、
ふと手元にあった携帯電話に思い付きで隠しページだけを打ち込んだんですよね
(ええ、だからあの濡れ場のみを。ほぼあのままの文章でね?:笑)。
…で、当時裏パロをあまり書き慣れていなかった私は
「こんなのでも捨てるのは惜しいなァ」と妙な欲を出してしまいまして、
結局後で前後のストーリーをくっ付けたという。
熱とか出すと人ってろくなこと考えないもんですねー。
…私は普段からそうですが(笑)。




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