真昼の情事
まひるのじょうじ






  彼は仰向けになったまま軽く肘を折り曲げ両肩の脇に置かれている掌を開いた。僕が彼

 の身体に覆い被さりながらそれに自分の指を絡ませると二人は当然のように互いの舌を探

 り合う。しっとりと長い口吻けを交わす。

  彼が片膝を立ち上げたことを合図に僕は唇を離すと組み敷いている身体が纏っているズ
                   
 ゆか
 ボンのファスナーを下ろした。彼が両手を床に突き下身を浮き上がらせた時宜に合わせて

 下着ごとするりと邪魔な布を引き摺り下ろす。
                
 くつろ
  僕は合間に自分のジーンズの前を寛げ再び彼の上に重なった。視界の定まらぬ闇の中、

 白いシャツの釦を外す。一つ、二つ――勿論、彼はされるがままだ。

  一番下のものを外し終わると、とうとう彼の裸身が僕の眼下に曝された。ゆっくり唇を
           
 くう
 重ねると、彼はシャツを空に泳がせ僕の背に手を絡ませる。

 「…ぁ……ぁ…――キス、して……」

 「…今……してる、だろ……?」

 「……犯して……」

 「――…解ってるよ……」
           
 かわ          ゆか
  僕はすっと濡れた唇を躱すと薄い胸を突き彼を床へと押さえ込んだ。片手で彼の股間を

 探り、もう片方の手で白い胸元をまさぐる。
            
 つま                   しめ
  指先に引っ掛かる部品を摘み取るように弄びながら舌で肌を潤した。湿った吐息が部屋

 中に充ちる。

 「信じられないな、君……ちょっと弄られただけなのに、こんなに乳首を勃てて……」

 「……ん、っ……」
                         
はい
 「こんなに滴る程、濡らして……もう何もしなくても挿入るんじゃないか? 充分……」

  意地悪な口調で囁くと、彼は涙を溜めた虚ろな眸でゆるゆると首を振る。

 「……厭……」

 「臆病者……」

 「…厭だ……」

 「臆病者……人殺しのくせに」

  熱い吐息を振り掛けながら僕は彼の喘ぐ肌をぎりぎりと歯で咬んだ。刺激にびくりと跳

 ねる身体に体重を乗せ押さえ込む。淡い肌に幾数もの鬱血の痕を刻み彼の苦痛に身を浸す。

  僕は上体を起こし身体をずらすと、ジーンズから取り出した無気力な性器を彼の鼻先に

 突き付けた。以前は抵抗を感じた行為だが仕方がない、彼がこうされることを悦びと示す

 のだ。怖ず怖ずと差し出された舌が僕の下身へと伸びる。小さな口腔へ僕の男性器を取り
                  
かお
 込む。屈辱の中にもどこか歓酔の滲む表情――これは、この時にしか見られない彼の隠さ

 れた一面だ。

 「…ぅっ……く、……ンン…っ……」

 「信じられない、ただの友達にこんなことするなんて……虐めてくれさえすれば、誰だっ

 ていいんだね……」

 「…んっ、…ン……」

 「――淫乱」

 「ン…――」

 「…もういいよ、……離せよ……」

  思ってもいない惨酷な科白を次々と口にする。――そうしてやると、彼が悦ぶから。

  僕は彼の口から充分に硬くなった生殖器を引き摺り出し汗に濡れた大腿を大きく割り拡
              
 まみ
 げた。とろとろと闇に耀く蜜に塗れたその箇所へ、熱い劣情を叩き込む。

 「…あぁ、っ……」
              
  ほとばし
  耐えきれず口から掠れた悲鳴が迸るのも構わず、何度も腰を進めた。ぐいぐいと白い脚

 を押し拡き、彼の体内の芯を突く。
        
 ひら  ぱな                     だんせい
  やがて彼の喉が開きっ放しになり、どこか甘えたような響きを内包する男声が僕の聴覚

 を刺激し始めた。意識が朦朧とする誘惑に耐えながら、ただ只管に彼を貫く。

 「淫売」

 「…あ、…はぁっ……」

 「…まだ足りないの?」

 「…い、いっ……ぁ…――もっと……もっと突いて…――あぁっ…!」

 「変態……」

 「…ぁ、……もっと……」

 「…っ――――」
  
       
 「…逝く……あぁ…逝くっ……!」
   
 
 「――逝けよ」

  僕はその為に――君を殺す為に――こうして何度も何度も挿し貫いてやってるんだから、

 さ……。

 「あ…ぁ……もう厭だ……何も考えたく…ない……」

 「今そんな余裕、ないだろ……」

 「…犯…して……っ」

 「――だから、今やってるだろう……?」

 「…助けて……」

 「……――――」

 「助けて、助け…――ぁっ、ん……!」

 「……く、っ……!」

 「…――あぁっ…!」

  彼が達するタイミングを視線で計り僕は寸前で体内を去った。彼の締め付けを味わった

 僕も数秒遅れて精を放つ。濁った体液を彼の肌の上に吐き出す。

 「…は、っ……はぁっ……――ン、んんっ……」

 「…淫乱…――」

 「…んっ、……」

 「…気違い、色情狂……」

 「…んっ、…ん……――」
    
 おと                       なじ つづ
  幽かな音を鳴らしついばむようなキスを与えながら僕は彼を詰り続けた。半分は嘘だが、

 半分は本心だ。

  互いに舌を絡ませ、互いに息を絡ませながら僕はこの哀しい恋の行方について考える。

  最も幸せで最も辛い時間というものは確かに存在するのだと――彼が狂ってしまわない

 為の手段としいつも行なうこの性交の中にも確かに愛はあるのだと――
      
 いしおかくん
  ――…ねぇ石岡君……僕はどうすれば罪を償うことが出来るんだろう?

  ――…ごめんね……寂しい想いをさせて、君を独りにして――君をこんな風に狂わせて

 ――本当に、ごめんね……








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