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【 不快な表現が多用されております。覚悟の上、御高覧下さい 】

‖ 上記注意書きに危険を感じられた方はこちらからお戻り下さい ‖


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友情系 014-1 / TYPE-S

告白
こくはく





               みたらいきよし いしおかかずみ
 「それでは質問します。貴女は御手洗潔と石岡和己、どちらの発言を信用しますか?」





  ある意味では貴女は大変幸運な女性だ。この僕の口から直接真実の言葉を聞けるんです

 からね。

  これらの件についてはいつか話さなければならないだろうと僕自身考えていたんです。

 …ええ、いい機会だからお答えしますよ。いつまでも逃げ回ってばかりではいられないで

 しょうしね。



  それにしても人間の心理とは複雑なものだ、貴女達――僕と彼の関係を恋人のように想

 定しパロディ作品を書いている愛好家の方々は特に――そうした世界観を自らの手で創り

 出しているにも関わらず“現実にそんなことは有り得ないはずだ”と強く主張して下さる。

 どんなに本の中で僕が彼に囁こうと抱き付こうと――それが“本当に”愛情故の行動だと

 は信じられない、いや、信じていないのだと言い張るんですね。こういうことは寧ろ僕達
                   
 ほう       ただ
 の関係におかしな期待をしていない読者の方が余程“二人は啻ならぬ仲なのではないか”

 と信じて下さっているのだとか。

  ところで――貴女は一体どちらの愛好家なんでしょう。前者のパロディ愛好家ですか?

 後者のシリーズ愛好家ですか? …ああ、それは訊くまでもなく前者でしょうね、だって

 こんなところにまで来て下さっているんですから。

  だったらこの際だ、こちらからも是非お訊ねしたいことがある。何故貴女達は僕達の恋

 愛関係を現実のものとして信じては下さらないんですか? どんな種類の愛好家よりも僕

 達の仲が深まることを望んでいるはずの貴女が、何故その可能性を否定してしまうんです

 か?

  答えは簡単だ――それは一種の“自己防衛”なんでしょう? 僕達の間に恋愛感情があ

 るのだという期待を“現実”に裏切られることが怖いんだ。だから楽観視出来ない今は否

 定的な態度を取り期待が裏切られた時に深く傷付かない準備をしている――違いますか?

  要するに貴女達は現状に満足していない。どんなに親密そうな描写や科白を目の当たり

 にしようと、友情なのだと言い訳の出来る範囲のものならそれは友情でしかないのだと自

 分に言い聞かせてしまうんです。もうこうなったら誰の目にも明らかな性描写でも突き付

 けられない限り御納得下さらないんでしょうね…――いや、それでもまだ“別れるかも知

 れない”と思うと不安になるのかな、恐らく僕達二人が死ぬところまで見届けないと本当

 に安心は出来ないんでしょう。



  それでは質問します。貴女は御手洗潔と石岡和己、どちらの発言を信用しますか? ―

 ―答えは間違いなく後者だ。

  だってそうでしょう? どこのパロディ作品を見てもどこの研究文を見ても必ずと言っ
          
 ぼく   かれ                
 ていい程の確率で“御手洗が石岡のことを好き”なのだという想像が為されている。…え

 え、勿論ちゃんとした根拠があるのだということは承知していますよ、本の中で僕の方が

 紛らわしい言行を取っていることもほぼ認めてもいいとさえ思っています。――“本の中

 では”、ね。

  …その通りですとも聡明な貴女、僕の言いたいことはもうお解りになったでしょう?

 あれらは全て人の手によって綴られた物語だ。いやそうじゃない、“彼の手によって綴ら

 れた物語”だ。いつ誰がどこで何を言いどう動いたか――そんなこと、あそこまで正確に

 記憶出来るわけないでしょう? だからあれは“作品”なんだ。そう、“物語”なんです

 よ――…実在事件と実在人物を巧妙に使った、石岡和己という偉大なる作家のね。



  ああ、真実を知りたいのならお教えしますよ、別に隠していたわけではありませんから。

 石岡君のことでしょう? 僕は何とも思っていませんよ。確かに彼は家事や雑事に対し優

 れた能力を持つ男でしたからね、いたら便利なので傍に置いていた。ただそれだけです。



  …ええ、その通り、彼は非常に頭のいい男なんですよ。知性の退化だなんてとんでもな

 い。見た目にはどことなく頼りなげな印象の目立つ人ですからね、実際彼に会った事件関

 係者も付き合いが浅ければその性質を純粋なだけと判断するようなんですが、それは文字

 の語るマジックで、真実とは遠く掛け離れたものです。つまり――彼は事件記録を発表し

 ていくうちに“世間の望む探偵助手、事件作家像”というものを見極め、そこに巧く自分

 を嵌め込んだわけですよ。そして途中からは僕のこの性格をも利用し、比較することでよ

 り読者に信用される人格を創った。

  …おやおや、大丈夫ですか、泣きそうになっているようですが、もしかしたら貴女は彼

 のファンだったんでしょうか? でも真実を知りたがったのは貴女の方でしょう? それ

 にまだ話は終わっていませんよ。



  レオナが僕のことを慕ってくれていることは事実です。そして残念なことに僕が彼女の

 気持ちに応えられないことも……事実です。僕達二人の関係はほぼ本の通りと見て間違い

 ないんじゃないでしょうか。しかし……

  石岡君がレオナに抱いている感情があの描写の通りであるとは僕には到底信じられませ

 んね。どちらかと言うと彼女のことは苦手と考えているようです。…だってね、僕は実際

 に近くで二人の言行を見聞きしているわけですから。やっぱりそういうことっていうのは

 雰囲気や態度に表れ出てしまうものでしょう? いや、もうはっきり言ってしまえば彼は

 彼女が嫌いだったんじゃないかな。だから本の中に書かれているレオナへの賛辞は本心で

 はありませんよ。彼は気の強いところのある彼女の性質をも逆に利用し、自分の立場をよ

 り安全且つ完璧なものにしたんです。

  もしかしたら――



  彼は貴女達が望んでいる通り僕を自分のものにしたいと考えていたのかも知れません。

 とは言ってもそれは純粋に僕を愛するが故の感情なのか、多少は世間に名の知れた異人種

 の僕を手に入れたいと思ったのか、それとも単に役立つ友人として傍に置いておきたかっ

 ただけなのか……本人に訊いてみなければ、解らないことなんですが。…とにかくまぁ、
                         
 
 彼に関して言えば本のイメージ通りの気弱な男などでは決してないのだということです。

 多かれ少なかれノンフィクションとはそういうものなんでしょうけどね。



  ――…さて、僕のことを本でしか知らない貴女、僕は貴女のイメージ通りの男だったで

 しょうか? またこの告白も“いつもの”ごまかしだと思いますか? 演技だと思います

 か?





  それではもう一度、改めて質問します。

  貴女は御手洗潔と石岡和己、どちらの発言を信用しますか?











ああ、「何て酷いもの書きやがるんだこの鬼畜生!」という声が聞こえるようですね
(ええ、そりゃもうごもっとも、私もそう思いますから:苦笑)。
これは、何故こんなものを書こうと思ってしまったのか――
もう、きっかけも忘れてしまったんですが。
でもねぇ御手洗サン、やっぱりこの説も真実として主張するのはちょっと難しいと思うの。
≪さらば遠い輝き≫という短篇が存在する以上――あれを現実の出来事として信用するなら――
彼をこうした“冷たい目線”で眺めていたのだとはどうしても考えられませんから。
今はこの作品を形にして良かったと思っています。
こうした可能性を考えたことで、より安心してお二人を信じられるようになりましたからね。




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