*** 2F *********************

  
 (手前の部屋)【絵画の間 ―THE PICTURE―】
    
じょうのまさひこ
     城野真彦(27)…………薬剤師
    
ほうじょうひでゆき
     北条秀幸(27)…………プロボクサー

  
 
(中央の部屋)【聖杯の間 ―THE CUP―】
    
ふじわらよしのり
     藤原若典(37)…………外科医
     
ふじみ あつこ
     富士見温子(31)………モデル


   (最奥の部屋)【人形の間 ―THE DOLL―】
     
つるぎ ゆか
     鶴来有香(16)…………高校生
    
 さえきあやの
     冴木綾乃(17)…………高校生




  *** 3F *********************

  
 (手前の部屋)【宝刀の間 ―THE SWORD―】
   
  さきみやちひろ
     東宮千尋(?)…………魔術師
   
  しまざきいくお
     島崎郁生(?)…………魔術師助手

 
 * 
(中央の部屋)【仮面の間 ―THE MASK―】
   
  みたらいきよし
     御手洗潔(41)…………占星術師 兼 私立探偵
   
  いしおかかずみ
     石岡和己(39)…………イラストレーター 兼 私立探偵助手

                
 兼 ミステリー作家


  
 (最奥の部屋)【宝石の間 ―THE JEWEL―】
     
さくま おさむ
     佐久間脩(46)…………古美術商
     
さくま こずえ
     佐久間梢(44)…………ジュエリーデザイナー












    U



 ■【絵画の間 ―THE PICTURE―】09:12 pm

 「――うわぁ……本当に素晴らしい名画ばかりだ…! ねぇ、秀幸もこっちへ来て見てご

 らんよ」
                              
さっき
 「ああ、あるところにはあるもんだな。…それより、なぁ、お前先刻の話聞いてたかよ?
         
  プレート
 何でもこのお屋敷には名札の下げてある部屋にその名の通りの美術品が並べてあって、毎

 回客が来た時には“目の保養”とやらをさせる為にそこを客間として使わせてるんだって

 よォ。全く、金持ちって奴だけは……次々と厭味なことばっか思い付いてくれるもんだぜ。
    
 ひとつきご
 こっちは一月後の生活の保障すらない貧乏暮らしだってのに…――財産持ちの真彦クンと

 は違って、さ」
                                
 はな
 「そんなことはないよ、うちにだってお金なんてない。昨日もお前には話したろ? 近々
  
 いえ
 あの家だって手放すことになるかも知れないって……」

 「…………」

 「…でもまぁ、僕としてはマリアさえいてくれれば。どこで暮らしていたって幸せなんだ

 けど……ね」

 「――へえ! 相変わらず欲のないことで!」





 ■【聖杯の間 ―THE CUP―】09:25 pm
        せんせいじゅつさつじんじけん
 「…石岡和己の『占星術殺人事件』に出てきた御手洗何とかっていう私立探偵……邪魔だ

 な」

 「あらァ若典、貴方らしくないわねェ。もう敗北宣言なの?」

 「まだ敗北などしていない。――…おい、よせよ温子、今夜は駄目だぞ。ここはホテルじ

 ゃないんだからな、気配で周囲に気付かれてしまう」

 「…そうかしら?」

 「ああ、この部屋の配置、一見単純そうに見えてなかなか考えてあるみたいだぜ。

  まず他の男達が妙な悪戯心を起こさないように女子学生二人を奥の部屋へ入れ、主催者

 側の真下、また同じ“女”である君を隣に置くことで二重のロックを印象付ける。そして

 メンバーの中で一番世間的にも名の知れた――つまり下らない犯罪など犯しそうにない探

 偵組を、用心棒として自分達の身近に置いたんだ。東宮と島崎、城野と北条なんてのは問
                
 ほお 
 題がないから当然手前の部屋へでも放り込んでおけばいい。…そして唯一、招待者の中で

 異性ぺアだった俺達は……」

 「――はぁ…ん、成程、妙なコトをする気が起きないように“真ん中の部屋”に配置され

 た、ってわけね」

 「そういうことだ。――さて、各部屋には浴室も洗面所も付設されているという話だった

 からこの部屋のも使える状態にはなっているんだろう。シャワーは君が先に使ってくれれ

 ばいい。僕は三十分程横にならせて貰うから――出たら、声をかけてくれ」

 「ン〜…――もう! 野暮なコト考える主催者ねェ」





 ■【人形の間 ―THE DOLL―】09:44 pm

 「ねえねえ見た見た綾乃! 本物の石岡和己よ、本物の御手洗さんよ〜!? あー、わざわ

 ざ千葉から足を運んできた甲斐があったわ〜、あたしって超ラッキー!!」

 「そうね〜、良かったわねぇ有香ちゃん、あの人達の大ファンだったものね〜。…――あ

 らぁ、このお人形さん達とっても可愛い顔してるのね〜、こんにちは

 「ん〜!? …あらっ、ホント。部屋ン中に入った時はぎょっとしたけど、よく見たらここ

 の人形達なかなか可愛い顔してるわ」

 「きっと私達が女の子だから喜ばせようと思ってこの部屋にしてくれたのね〜、あのおじ

 様達、いい人だわぁ〜」

 「…と、そう思うかも知れないけれどねワトスン君。どうやらコレ、そういった理由じゃ

 なさそうなのよ」

 「どういうこと?」
                            
  プレート
 「いーい、綾乃チャン、よく聞いて。このお屋敷の客室には表の名札通りのお宝が山程集

 められていて、あたし達十人は四日も泊まればここを出て行く人間なのよ? おまけに招

 待状を持ってきてるってだけで、素性さえ知れたもんじゃない。あの魔術師さん達なんか

 特にそうよ?」

 「だから〜?」

 「あたしはこの部屋割り、盗難防止だと睨むわね。お客を部屋に招く度に一つずつ収集品

 を持ち帰らせる程あのおじさん達だってバカじゃないはずだもの。だからね――要するに、

 こういうことなのよ。

  自分達が四階にある寝室からわざわざ三階へ降りてきたっていうのは明らかに“最も盗

 まれ易い宝石”を守る為だわ。そして“次に盗み易そうな仮面”がある部屋へ、招待客の

 中で一番有名な御手洗さん達を泊まらせた。…で、どうやら次に信用して貰っているのは

 あたし達みたいね、その気になれば盗まれる危険性のある人形の間に非力な女の子二人組
             
 あと   ほうもつ
 を入れておいて――そしたら後に残る宝物は刀剣と聖杯、絵画の三種でしょ? でもこの

 辺りになってくると長さや重さ、大きさなんかの事情から知恵や腕力のある大人にも断然

 盗みにくくなるわけよ。…どぉ? これがあたしの推理なんだケド」

 「……凄ーい、有香ちゃん、ホームズさんみたーい。流石ねぇ〜」

 「ふっふっふ、まぁこんなのは初歩の初歩よ。…でもあのおじさん達、結構侮れないわね。
     
 なに
 本当――…何かおかしな事件でも、起こらなければいいんだけど……」











    V



 ■【刀剣の間 ―THE SWORD―】10:13 pm

 「――ああ、食堂の後片付け御苦労だったね。全く、君は何をやらせても手際がいい。完

 璧だ! まるで助手をやる為に生まれてきたような男だよ。僕は普段から君の能力を非常

 に有り難く思っているんだ」

 「…………」

 「あの煌びやかな絨毯の上に落ちたスパンコールや紙テープを掻き集めるのは容易な作業
                             
さっき
 じゃなかったろう。疲れたんじゃないかい? …あぁそうだ、先刻覗いてみたんだけどこ

 この浴室は大変に造りが広くて、大の大人が二人で入っても充分に余裕がありそうだった

 よ。どう? たまには一緒に入ろうか」

 「…………」

 「…あぁ……そうか、残念だな。――じゃあ僕は一足お先に失礼するよ。おやすみ」

 「…――――!」





 ■【廊下】10:22 pm

 「――…おっと! あれ、島崎さん? ごめんなさい、ぼーっとしちゃって。大丈夫です

 か?」

 「……ええ、こちらこそ。すみません、前も見ず突然飛び出してしまって」

 「どうされたんです? お顔の色が優れないようですけれど……」

 「――いえ、何でもありません。……ところで貴方はこんな場所で一体何をなさっていた

 んです?」

 「え? あぁ……お恥ずかしい話なんですが、ちょっとした好奇心で。屋敷の中を見て廻

 っていたんです。島崎さんは?」

 「食堂に忘れ物を取りに。大した物ではないんですが……――――」
      
 なに
 「…あの……何か?」

 「…いえ、別に。それでは失礼します――…石岡さん」





 ■【仮面の間 ―THE MASK―】10:31 pm

 「やあ、長い散歩だったね石岡君! 聖なる美術館の探検は楽しかったかい?」
                                    
 はな
 「う〜ん、そこそこ興味深くはあったかな。城野さんと北条さんは、まぁ普通に話してて、

 藤原さんと温子さんは、ここの部屋割りを淫行防止だろうと推測していた」

 「ふぅん」

 「で、続く女子高生二人組。こちらはあの元気の良いホームズ君がここの部屋割りを盗難
          
 はな
 防止だとワトスン君に話していたよ。それから――島崎郁生さんが僕の目の前で、喋った」

 「――ほう! それで? どうだったの?」

 「…あの二人が会話をしているところもほんの少しだけ聞いたけど、あれはどうにも巧く

 いってる感じじゃなかったね」
       
 マジシャン
 「ふ…ん、まぁ魔術師の方が随分と癖のありそうな男だったからねぇ」

 「そうだね。君を思い出したよ、僕は」

 「…………」
          
 あと
 「…で、とにかくその後に島崎さんだけが廊下へ飛び出してきて、僕とぶつかったわけだ

 けど……うーん、まぁ、ね……感じの悪い人ではなかったよ。ただ……」

 「ただ?」

 「聞き間違いならいいんだけどね、彼、擦れ違い様にぼそりと呟いた気がしたんだよ。

 “ちくしょう、いつか刺してやる”――」

 「――――…」

 「まさかとは思うんだけどさ、お隣は刀剣の間だろ? どっちにしたってあまり穏やかな

 話じゃないよ。誰を、となると――まぁあの魔術師のことだとしか考えられないんだろう

 けどね」

 「…そうかい? 僕にはもう一人心当たりがあるんだけどな」

 「えっ、誰だい?」
  
さっき
 「先刻自分の通行路を塞いでいた男。つまり君のことだよ――石岡君」










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