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【 ≪異邦の騎士≫のネタバレを含みます 】

‖ 上記注意書きに危険を感じられた方はこちらからお戻り下さい ‖


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EXTRA STAGE 007-1 / TYPE-C

誰のもの?
だれのもの?






                ゆか
 「やだー、ここどこー? 何だか床はフワフワしてるし人はいないし……ああ〜ん、せめ
 
いしおかせんせい
 て石岡先生が傍にいてくれればこの状況をも利用出来たのにー! ……先生ーっ? いな

 いのー?」

 「おやー、ここはどこなんだー? 異様に霧は深いし足元は不安定だし……とりあえず、

 死んだ記憶はないんだが。僕がここにいるってことは当然石岡君もその辺りにいるってこ

 とか? おーい、石岡くーん……?」

 「――えっ?」

 「――んん?」
                               
  みたらいきよし
 「『石岡君』ってことは……――あーっ、貴方もしかして! 名探偵の御手洗潔さん!? 

 片方眉毛上がってるし!」
                                   
  いぬぼうさとみ
 「あー? …ははん、成程ね。そう言う君はもしかしなくてもセリトス女子大の犬坊里美
 くん 
 君――ほう、これは確かに。なかなか手の早そうなお嬢さんだ」

 「ちょっ…何ですか、初対面で失礼な! 手なんか早くないですよー、石岡先生が遅いだ

 けです!」

 「石岡君は手が遅いんじゃない、君に興味がないから手を付けようとしないだけだ。大体

 何が失礼だ、自分から先に僕の眉毛が片方上がってるとか何とか言い出しといて」
                       
ひと
 「だって上がってるじゃないですかー。何、その他人を思いっ切り小莫迦にしてるような
 
カオ                      ひと
 表情! 貴方本当に石岡先生が本に書いてた通りの男ですねー、何だかヤな感じ!」

 「別に僕の眉毛がどうだろうと君には関係ないだろう!? 人の顔にどうこう難癖を付けて

 いる暇があったらその前に自分の厚化粧を何とかしたまえ」

 「あっ…!? 厚化粧なんかじゃないですよー! 石岡先生だって、そんなこと一度も……」

 「いや、口には出していないかも知れないが心の中では絶対に思ったことがあるはずだ。
 
 りゅうがていじけん   くど                   さいご
 『龍臥亭事件』でも諄い程に君の化粧について書かれていたし『最後のディナー』に至っ

 ては君に抱き付かれて“楽しくなかった”とまで書いてある」

 「うっ! そ、そりゃあの時は確かに先生の服にちょっぴりお化粧も付けちゃったけど…

 ――酷いわ先生、そんなことまで本に書かなくたっていいのに……」

 「あぁ、ま、確かにその辺りのことは全部彼が悪いんだけどね、僕の眉毛が片方上がって

 るだの髪がもじゃもじゃだのと広めたのも元はと言えば石岡君だし」

 「あははっ、本当、もじゃもじゃですねー! あぁー、おっかしい!」
              
さっき
 「うるさい小娘! と言うか先刻から気になっているんだが何だ君のその態度は。君は僕

 のファンでもあるんじゃなかったのか?」

 「ええ、まっさかぁ! あんなの嘘に決まってるじゃないですかー!? 私は“も〜うこれ

 以上はない! ってぐらいの超究極カズミスト”なんですよぉ!? 貴方になんかペットボ

 トルのキャップに入れた水程の興味もありません」

 「あぁ、こっちこそ君のようなファンはお断わりだがね。…でもま、君がどんなに彼のこ

 とを追いかけ回したって無駄だよ? あれは僕のものだからね。大体二十七歳差って君…

 …常識で考えれば相手にされていないことぐらい解りそうなもんだが」

 「あっ、貴方みたいな人に常識だの何だのと言われる筋合いないですよー! って言うか
                  
 
 二十七歳差が何よ、石岡先生若い女の子好きだもん! 私から見たら貴方こそ敵じゃない

 わ、さっさとウプサラへ帰ったら!」

 「な、何ッ!?」

 「そうよー、大体貴方こそ何なのよー、自分勝手な理由であっちにフラフラ、こっちにフ

 ラフラ、石岡先生のこと散々振り回した挙句邪魔になったからって捨てていったくせに!

 そんな人が今更どんな権利を主張しようっていうんですか!? 冗談じゃないわよ!」

 「すっ、捨ててなどいない、失礼なことを言わないでくれたまえ! 彼だって僕を信じて

 いるからこそああして馬車道で待って…」

 「果たして本当にそうですかねー? 先生、今も貴方のことを親友だと思っているのかし

 らー? 『最後のディナー』読ませていただきましたけど、あの時先生貴方に向かって敬
  
 はな
 語で話してたじゃないですかー?」

 「…………」
                      
 なん
 「あれ、目茶苦茶大問題だと思いますけどー? 何か物凄く距離を感じるって言うかー。
                  
 ほう
 やっぱり人なんて最終的には近くにいる方と親しくなっちゃうものなんですよねぇ。あぁ、

 貴方の方にもホラ、何とかリッヒとかいうお友達、いるじゃないですかー? もし助手が

 欲しいなら今度からあの人を連れ歩いたらいいじゃなーい。ねっ? 石岡先生の方は私が
   
 そば
 絶えず傍にいて、ばっちりお世話させて貰いますから

 「な、何て図々しいことを……!」

 「って言うかねー御手洗さん、私と先生って実はもう一線越えちゃってるんですよー。キ

 スだって何度もしちゃってますしねー。…貴方は別に、石岡先生の恋人だったわけじゃあ

 ないんでしょう?」

 「……そ、それは、まあ……」

 「それは? まあ?」

 「……勿論違う、けど……」

 「でっしょー!? ――だったら! 私達二人の邪魔をするっていうのはちょっと不粋なん

 じゃありません? いくら何でもそこまでするのは友情の域を超えてるって言うかー、…

 …超えて、ないんでしょ?」

 「……当然だろう?」

 「でもまぁ、貴方が日本を離れたからこそ私も先生とめぐり逢えたわけで。これも星の定

 めた運命なんじゃないかと思うんですよねー。そういうもんでしょう? 男と女の出逢い

 って」

 「…………」

 「あぁ〜、それにしても石岡先生、想像してた以上に柔らかい唇だったなぁ〜 貴方十

 五年も一緒にいたのにあの感触知らないんですよねぇ〜。あぁ〜、勿体無い」

 「…………」

 「あららー、やだ御手洗さん、もしかして泣いちゃってるんですかー? ちょーっと、こ

 んなところで泣かないで下さいよー、私が虐めてるみたいじゃないですかー。…って言っ

 てもまぁ、ここにはそれを咎める人なんていやしないんですけどね?」

 「…………」

 「あれー、本当、そんなにショックだったんだー? すみませんねー、ちょっとあの口ン
                                
あった
 中に舌挿れて歯の裏側とか舐めさせて貰っちゃったんですけどー、もう温かいって言うか

 気持ちいいって言うか、思わずその場で犯っちゃいたくなるぐらい…」

 「あああああ――っ、もう限界だやめてくれ――ッ!! いっ、石岡君……こんな女に穢さ

 れて……ああ、何ということだろう! だから女には気を付けろとあれ程何度も何度も…

 言い聞かせておいたのに…っ!」

 「――ああ、そのことについては貴方に感謝しますー。だって貴方がそうして見張ってて

 くれたからこそ石岡先生今まで彼女いなかったんですものねー? いやー、私が大人にな

 るまで守っててくれて本当にありがとうございましたー。でももうこれからのことは私が

 完全に引き受けましたから、御手洗さんは安心して研究室の方へ戻って下さ…」
                        
 
 「あらぁー、ちょっと何何、どうしたのー? こんな娘に言いたい放題言わせちゃって、

 御手洗さんらしくないじゃなーい」
       
 
 「こっ、こんな娘って……もしかして私のこと!?」
                                       
とんび
 「そうよぉ、人が大切に残しておいた油揚げを横取りしようとなさっているしたたかな鳶
       
さっき                わめ
 さん。しかも先刻からキスしただの何だのと偉そうに喚いているみたいだけど……――フ

 ッ、あんなの。別に大した問題じゃないじゃなーい。腕力で無理矢理押さえ付けてやった

 上、結局彼をその気にもさせられなかったくせに」

 「…ちょ、ちょっと貴女、誰なのよ……レオナさんにしては何だか内容がおかしいし……

 って言うか、どうして貴女だけ霧の向こう側にいるの? 卑怯じゃない、さっさと姿を現

 しなさいよー!?」

 「言われなくたって見せるわよ。私に最も逢いたくて、同時に最も逢うことを恐れていた

 犬坊里美さん?」

 「…ええっ、ってことは貴女、もしかして……」
                      
かずみ
 「うっふふふふふ、御名答 そう、私が石岡和己の永遠の恋人! そして永遠の妻でも
  
いしかわりょうこ
 ある石川良子本人よ! ――はぁい、お久し振りおトイレさん。お元気でした?」

 「――…あぁ、やっぱり君だったか……(って言うか絶対に出てくると思ったよ。出てこ

 ないわけないもんな、話の流れ的に……)」

 「当然でしょ? ここに出さなくて私をどこへ出そうって言うの? とまぁ、それはとり

 あえず置いといて……おトイレさん、貴方ともあろう人が何て情けない……! やられっ
       
  けいすけ      
 放しじゃないの、敬介さんがこんな娘に盗られてもいいの?」

 「いや、勿論良くはないが……何だ良子君、珍しく僕に加勢する為に出てきてくれたのか

 ?」

 「あぁん、世の中そんなに甘くないわョおトイレさん。私は正々堂々と闘っても貴方達に

 負けない自信があるからちょっと余裕を見せただけ
             
 ひと
 「な、何て意地悪そうに笑う女なの……!」

 「ああ……実は僕もこの人だけはちょっぴり苦手なんだ、何だか重要キャラの割には意外

 に出番が少なくて本質もイマイチ掴めてないし、ある意味僕の知らない石岡君を知り尽く

 している人だからね……」

 「そう――その通り、私はあの人と何度も愛し合ったことがある女……――いい? ここ

 が重要、私はあの人と“愛し合った”のよ、勝手な独りよがりで強引に手を出したわけじ

 ゃないのよ?」

 「くっ…!」

 「…………」
            
 ひと
 「そりゃあ普段は大人しい男だったけどね? あの時はも〜う最高だったわ〜 勿論そ

 れはテクニックが凄いとかそういう意味じゃなくてね、こう、照れ臭さを隠せないながら

 も“僕が守ってあげるよ〜”っていうオーラを全身から感じさせてくれるって言うか……

 とにかく、優しさ全開ムードだったのよ〜 キスをしてくれる唇も、汗を拭ってくれる

 指先も、愛撫をくれる舌も、歯も……」

 「キャー、ちょっとちょっと良子さん!! ストップ、ストップ!!」

 「…あぁ〜成程、この話が≪EXTRA≫扱いなのはこの女のせいだったのか……それに

 しても君、石岡君のそんな一面をこんな形で暴露しようだなんて……」

 「あら、でも私を止める前にちょっと想像してみてよ。あの彼が、実際どんな風に女を愛

 するのか……」

 「…………」

 「…………」

 「あのお綺麗な唇で切なく愛を囁きながら身体中の至るところにキスをして、華奢な指先

 がそうっと敏感な部位をなぞるように下へと滑り下りていくの。そして胸を舌や歯で愛撫
  
 
あと
 した後、やがてそれらは下腹部へと辿り着く。彼は意外に逞しい男性の…」

 「あーあーあーっ、解った!! 解ったからもうそれ以上はやめてくれ――っ!! イメージ
  
 なん
 的に何かギリギリだ、そういうのは! 裏パロはある意味“嘘っぽい”からこそ安心して

 読める部分もあるんだ、そんなリアリティ溢れる話題でカズミストのお嬢さん達を本気で

 泣かせてどうする!!」

 「泣いてるのはおトイレさんじゃな〜い」
                                    
 そそ
 「い、いや、確かにこれはちょっとマズイと思いますよー、良子さん。目茶苦茶唆られる

 光景であることも事実なんですけどー…」

 「あら、そぉ? それじゃまた暇な時にでも色々想像してみてね? なかなかエッチな気

 分に浸れるから

 「あぁー、それはもう今までにも散々やってはいたんですけどね? やっぱり経験者から

 聞くと迫力が違うって言うか何て言うか……」

 「可哀相だ、石岡君……君って女性にまで妄想の中で陵辱されていたんだね……」

 「あら、“女性にまで”ってことはやっぱり御手洗さんも先生をそういう目で見てたって

 ことですかー?」

 「いや、僕は違う! 今のはあくまでこのシリーズのパロディの傾向についての話でだね
           
おなぎきょうじゅ たなかけいじ
 …――ほら、彼はよく御名木教授や田中刑事なんかに裏パロの中で良からぬ悪戯をされて

 いるだろう?」

 「って言うかパロディで一番多く石岡先生にエッチなことしまくってるのはダントツ御手

 洗さんだと思うんですけどー」

 「そんなの僕自身には関係のないことだろう!?」

 「あぁら、果たして本当にそうかしらね御手洗さん? 貴方彼との友情を主張しているの
                   
 あか
 は結構ですけど、先程から少〜し頬の色が朱いみたい……」

 「い、いや、そんなことは……」

 「――想像したわね? 貴方敬介さんがあの時どんな顔をして達くのか、どんな声を洩ら

 すのか結構リアルに想像しちゃったわね?」

 「も、もう勘弁してくれ……」

 「って言うか良子さんセクハラ」
                   
 ひと
 「ああ、ある意味凄いなぁ石岡君、こんな女と本気で純愛してたって言うんだから。そも
                        
 なん
 そもこのシリーズ、考えてみれば女性キャラクターは何か全員危険な感じの人ばかりじゃ

 ないか? 良子君は外国人の契約二号を勤めていたこともあるという筋金入りの上に犯罪

 者だし、里美君は折檻されても浮気癖の治らない男狂いの娘だし、レオナは自宅のスクリ

 ーンでアダルトヴィデオを映し『白人女性のあそこが好き』とか言いながら女性の下着に

 手ェ突っ込んでるし……」

 「おっ、親は関係ないじゃないですかー!」
             
 かた
 「って言うか、レオナさんて方は一体どうしてそんなことに? 彼女はおトイレさんを追

 っかけていたんじゃなかったの?」

 「ああ、まぁその辺りの事情は色々あるんだろうけどね、どっちにしても僕には関係のな

 い世界の話だよ」

 「あー、でも石岡先生って結構そういうの好きそう」

 「ああ〜、好きかも知れないわね、意外に」

 「大体そうした性的なことと言うか、俗的なことというのをだね、あまり感じさせないよ

 うにと男二人で築いてきたこのシリーズの世界観をだね……」

 「石岡先生って基本的には何でも“観るのは好き”なんですよねー。特に、女性絡みのこ

 ととなると」
                                       
 ひと
 「そうねぇ、ま、根が芸術家ですものね。あぁ、例え生活の為とはいえあんな線の細い男

 に重いアクリルの板を運ばせたり溶接をさせたりして本当に申し訳なかったわ〜」
                               
たわむ
 「女なんかにはお互い関わらずにだね、気が向いたら散歩をし、犬と戯れ、音楽を聴きな

 がら紅茶とケーキを味わっていた僕達二人の空間を、君達は……」

 「あぁでも私、石川敬介さんも結構好きだったんですよー。たまに見せるちょっと男らし
 
 めん
 い面もカッコイイって言うかー」

 「あらン、やっぱり? でも実際は世間が言う程あの人昔も今も変わってはいないのよ?

 普段はどっちかって言うとぼんやり、おっとり型だったし…」

 「――…って人の話を聞きたまえよ君達、思いっ切り無視してるじゃないか、何だよ!?」

 「だぁーって! 貴方こそ一体何なんですか! 何が“性的なことからも俗的なことから

 も離れてる”よ!? 一見浮世離れして見える世界観だけどそんなの現実として捉えたら目

 茶苦茶不自然な生活じゃない! それから何? “女なんかにはお互い関わらずに気が向
          
たわむ
 いたら散歩をし、犬と戯れ、音楽を聴きながら紅茶とケーキを味わっていた”ですって?

 そんなのどこからどう見ても妖しさ炸裂じゃない! そんな光景見せ付けといて同人女が

 黙っていられると思うこと自体が頭腐ってるっちゅうのよ!!」

 「さ、里美さん、どうして貴女がそんなに興奮しているの? 気持ちはちょっと解るけど

 ……(って言うか男に犯られてる敬介さんって乙女心に響く気は確かにするけど……☆)」

 「あああーもう、これだから女ってヤツは! 低俗で低レヴェルで短絡的で! すぐに自

 分の尺度で物事を判断しようとするんだからな!」
               
  アーンド
 「あー、出たー、御手洗潔の“演説&女性批判”! 大体貴方のそれ、石岡先生にはすー

 っごく迷惑だったみたいですよ? って言うかはっきり言って貴方がホモじゃなかったら

 一体誰がホモだって言うんですか、目茶苦茶ホンモノっぽい性格の上に“それ的な”オブ

 ジェとして完璧な同棲相手までくっ付けて歩いて!」

 「同棲じゃない、同居だ!」

 「わぁ、まだこんなこと言ってる。って言うかさぁ、この手のパロディで御手洗さんが友
                       
 なん
 情を主張するのって意外に珍しいパターンだけど、何か目の前で見てるとこれもまた潔く

 ないって言うか見苦しいって言うか……」

 「ああ、だからオリジナルではああして黙秘を続けているわけね?」
          
 なん
 「でもそれはそれで“何かごまかしてるみたいー”とか何とか言われてるみたいなんです

 けどね?」

 「まぁここまできちゃったら何やったって怪しいもんは怪しいわよね……」

 「うう……僕だって色んな意味でどうすればいいのか解んないんだ……認めたら認めたで

 間違いなく一部のミステリーマニアからは“受け狙いのヒーロー”とかバッシングされる

 んだろうし……」

 「やだー、御手洗さん可哀相ー」

 「そうね〜、誰がどう言おうと真実はいつも一つなのにね〜……」
                                
めいたんてい
 「里美君、良子君……(ホロリ。って言うか良子君、そのフレーズは『名探偵コナン』の

 パクリだろう……?)」

 「…とまぁ、そういうわけで。結局敬介さんは私のものでしかないってことで…」

 「――ちょっと待ちたまえ。先程から君は“敬介さん敬介さん”と盛んに彼への愛情をア

 ピールしているが、そんな彼を騙していたのはどこの誰だ?」

 「あぁっ、あれは……!」

 「あんなに純粋で誠実で真面目な彼を殺人者に仕立て上げ、挙句彼自身をも殺そうとした

 のはどこの誰だ?」

 「あっ、あれは兄さんが…!」

 「『一目惚れって信じるかい?』『信じるわ』――…あの時の言葉は果たして本心だった

 のかな? 当時の君は内心莫迦な男がまんまと作戦に引っ掛かったものだと陰で彼のこと
  
あざわら 
 を嘲笑って…」

 「いやー! ちょっと待って、それは違うわー!! って言うかそんなことないもん、違う

 もん! 私は最初っからあの人のことを愛してたのよ、本当よー!?」

 「…わぁ凄い、初めて良子さんが動揺した。でもこれは図星なのかそうじゃないのかちょ
                
 なん
 っと判断し兼ねるところですねー、何か泣きそうになってるし。…それにしても御手洗さ
                
 なん おとなげ
 ん、本当に血も涙もないですねぇ、何か大人気なーい」
             
おとなげ
 「ふふん、このシリーズに大人気のあるキャラクターなんかいやしないよ。ちなみに良子

 君に一言言っておきたいことがあるんだが、石岡君は君と暮らしていた頃から既に僕の方

 を選んでいたよ?」

 「そ、そんなことは……」
                                       
いほう
 「ははん、今少しでも言い淀んだということは多少は自覚があるらしいね。そう、『異邦
  
きし
 の騎士』を読み返すか当時を思い出すかして貰えば解ると思うが、僕と知り合ってからの

 彼の関心は明らかにこちらに傾いてしまっていた。君がはっきりと“綱島には行くな”と

 止めたにも関わらず、彼は僕の元へと日参することをやめようとはしなかったんだ。正直

 僕にもあの頃の彼の心理は謎なんだが、とにかく大した用事もないのに傘までさして綱島

 へ通ってきていたというのは彼が僕に深い友情を求めていたのだという何よりの証拠じゃ

 ないか? またあれだけ(心の中ではともかく表面上は)人当たりの良い彼が僕にだけ言

 いたいことを言うのも他人であるという意識が希薄だからなのではないかと思われる、つ

 まり――

  彼は自分でも気付かぬうちに僕と共にいることの方を選んでいたということになる。も
   
 あと        
  わず
 しあの後君達が結婚していても僅か数ヵ月で話題が尽きた夫婦に幸福な家庭を築けたかど

 うか……」
              
 ひと
 「なっ、何て惨酷なことを言う男なの、『異邦の騎士』は究極の純愛バイブルよ、心ある

 読者を感動の渦に巻き込み続けている石岡和己の最高傑作なのよー!?」

 「その純愛バイブルのタイトルが“異邦の騎士”……フッ(耐えられない、といった様子

 で嘲笑)」
      
さっき                     ワル
 「うわっ、先刻の良子さんにも驚いたけど御手洗さんも相当な悪だわ! 私が言うのも何

 だけどもしかして石岡先生ちょっぴり趣味曲がってる!?」

 「何よぉー、読者的には“敬介×良子”は永遠の純愛カップルなのよー!? 今でもキャラ

 クターランキングで上位が取れる程支持され続けてるんだからー!」

 「いや、一部では“御×石”の方が主流…と言うか、“絶対”だ。あくまでパロディでの

 話だが」

 「そんなのは特殊世界での話でしょ、オリジナルでは所詮イバラじゃない!」

 「あのー、読者的にも全く支持されていない私が失礼を承知で言わせていただきますけど、

 良子さんはもうお亡くなりになっているから女性にも認知されているんじゃないですか?」

 「そうよ!? 私なんか彼に殺されたのよ!?」

 「うっ、それは…!」

 「これもまたある意味美味しい立場だな」

 「…でもぉー、やっぱり先のことを考えるとですねー、結局身体がないっていうのは色々

 不利なんじゃないかと思うんですよねー。例えば、あの時とか……」

 「あらー、それはどうかしらねー、どっちにしたってあの人出来なくなっちゃってるんで
                                       
 ひと
 しょー? …あぁ、やっぱり私じゃないと駄目ってことなのよねぇ、どこまでも誠実な男

 ……

 「いや、それは解らないぞー? 女とは駄目でも男となら出来るかも知れない」

 「あーっ、また御手洗さん、問題発言ー!」

 「別に僕が犯るとは言っていないだろう!?」

 「でも何だか漢字使いが犯る気満々さを醸し出しているわ、おトイレさん」

 「トイレって言うな!! ――とまぁ、そいつはともかく……」
     
さっき
 「私達が先刻からこーんなにも危険な話題で盛り上がってるっていうのに……」

 「敬介さん。…出てこないわねぇ……」

 「はっきり言ってこんな言い争いは無意味だ……結局は何をどう主張しても、運命は彼の

 心一つで決まってしまうんだからな」

 「まぁもしここに先生本人がいたとしても『ええっ、僕には選べないよ〜』とか言いなが

 らおろおろするだけなんでしょうけどねー」

 「あはっ、それは言えてるわねー。……それにしても御手洗さんがいて私がいる、この空

 間って一体……」

 「ああっ。ここって、もしかして……」





    
**********





  ――…なーんて夢を見たんだけど……
 
みんな
 「皆物凄い勢いの討論を繰り広げちゃっててさ、もう聞いてるだけで疲れたって言うか何

 て言うか……本当に、夢で良かったよ」

 「…で、結局誰を選ぶの? そういう状況に陥ったら」

 「さてねぇ……どうしようかな」

 「またまたー。相変わらず酷い人だなぁ」

 「じゃあそんな酷い僕とこうしてエッチなことしてる自分はどうなの?」

 「さぁ……単なる幸せ者、かな?」

  すると彼――石岡和己は悪戯な微笑を滲ませながら僕の唇にキスをした。甘えるように

 舌を絡め僕の理性を粉々に破壊してゆく。

  美事な裸身をシーツで包み彼はくすくすと苦笑した。
    
みーんな
 「全く、皆バカなんだから。僕の身体は僕のものだよ、誰のものでもないっての。…あぁ
                                      
おなぎ
 〜、でもあんな内容の夢見たせいかまたその気になってきちゃったなぁ。――ねぇ御名木

 さん、もう一ラウンド僕の為に働いてくれる気、ない?」

 「貴方の誘いを断われるわけがないでしょう? 本当、悪魔なんだから……」
                                    
 あそ
  僕はもう一度彼に口吻けると寝乱れたシーツの上へ馴染んだ肢体を横たえた。弄ばれて

 いることは解っていても、何故だかこの人にだけは敵わないんだよなぁ……。

  …あぁ、今夜も眠れない夜になりそうだ。

  御手洗さん、良子さん、そして犬坊君――本っ当に……ごめんね☆











って言うか、御名木かよ!! 「ごめんね☆」じゃねーだろ!? ――って感じ?(笑)
メインキャラクター三人の主張とラストだけを念頭に即興打ちした
勢いだけのコメディです。
里美ちゃんの自慢話を打ちながら目茶苦茶ムカつきましたけど。
良子ちゃんがエロネタ暴露し始めた時はちょっぴりビビりましたけど。
結局御手洗さんも言っちゃなんねー科白吐いちゃってますから、
まぁおあいこですよね(笑)。
一番問題なのはこんな夢を堂々と見ている石岡君なんですが……。
ブラックユーモアとして捉えて下されば幸いです。えへ☆




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