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【 ≪異邦の騎士≫のネタバレを含みます/性描写(分類D)
【 不快な表現が多用されております。覚悟の上、御高覧下さい 】

‖ 上記注意書きに危険を感じられた方はこちらからお戻り下さい ‖


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EXTRA STAGE 005-1 / TYPE-S

ただ、彼の傍に
ただ、かれのそばに






                      あし
  僕は裸身をベッドの上に横たえ大きくその両脚を拡いていた。両手は頭上にある左右の
        
 くく 
 パイプに堅く強く括り付けられ、どんなに抵抗を示そうとその拘束から逃れることは出来

 ない。先程から下身を魘い続けている鋭い痛み。出血。汗と体液の混じり合う背徳の匂い。

 軋むベッドの音。自身の喘ぎ。

 「――…ぅっ、…ぁ、……ぁっ…!」

  数日前から僕は陵辱されている。相手は見知らぬ男だ。ここは見たこともない廃工場の
     
ひと                    わず
 一室だが人間が隠れ家として使用しているらしい様子が僅かに置かれた家具等から窺える。

 その中に僕の著書が沢山あった。要するに彼は――ストーカーという人種なのだと思う。

 散歩の帰りに突然後頭部を殴打された僕は白いヴァンへと乗せられ、このどこにあるとも

 知れない部屋まで運び込まれたのだ。着いた早々に自由を拘束され衣服を破られたからま

 さかとは思ったが――よく見るパスティーシュ・ノヴェルが現実になってしまったという

 わけだ。何と莫迦莫迦しい人生だと思う。

 「…あ、…あっ、あぁっ、…ぁ、……」

  男が突き挿れる度に断続的な喘ぎが洩れた。快感はあまりない。ただ痛くて怠いなと思

 う。

  自分の精神が麻痺していることには気付いていた。これでも初めのうちは確かにちゃん

 と抵抗もしたし、涙を流して恐怖を訴えることだってしてみせたのだ。しかし――…

 「あ! …はあっ、はっ、…ぁっ…」

  いくらか時間が経つともうどうでもいいような気がしてきた。どうせ何をしたところで

 相手が暴行をやめるわけもないのだ。叶わない抵抗は疲れる。

  挿入を果たした男に飽くことなく穿たれ続けているうち、何故だか“もう好きにすれば

 いい”という感情が起こった。別に身持ちが悪いつもりはないけれど。それを望んでいた

 わけではなかったけれど。
                            
 しめ
  規則的に繰り返される抽送。揺さ振られる身体。じっとりと湿った空気。囁く、声……
     
かずみ
 「――…和己……」

 「…は、あっ…ぁ、……あっ……」

 「あぁ、やっぱり想像してた通りの味だ……アンタ、最高に俺好みの人だよ……」
                        
 そそ       さっき    いしおか
  男がくすくすと笑い妙に馴々しい口調を耳の中へと注ぎ込んできた。先刻までは“石岡

 さん”だったのにいつの間にか名前で呼ばれている――そう思った瞬間、男の乱暴な指が

 性急な動きで僕の胸元をまさぐり出す。――痛い。

  すると男はくすくす笑いを続けながら性器を抜き、再び僕の上に覆い被さると上体を舌
                            
 なに
 で愛撫し始めた。達かなくて良かったのだろうか? それとも何か違うタイミングを狙っ

 ているのか? ……解らない。
    ・・・
  ――変な奴……

  双眸を閉じ心の中でそう呟いた、刹那。
          
 なに
  ズクン、と胸の奥で何かが疼くのを感じた。思わず両の瞼を開く。同時に涙が溢れ出す。
                      
あし
  身体中が大きく震えた。男の肌に怖ず怖ずと両脚を絡める。

 「……し、て……」

  信じられない科白が自らの口から零れ出た。

 「…もっと、愛して……名前、呼んで……」

  ぐいぐいと両脚で男の背を引き寄せながら僕は囁く。自分がおかしくなってしまったと

 ――冷静に判断出来たのは、ここまでだった。

 「愛してる、和己……」

  ――愛してる、石岡君……

 「アンタさえいれば、俺はもう何もいらないんだ。…本当だよ……」

  ――君さえいれば、僕はもう何もいらないんだ。…本当だよ……

 「あぁ、ずっとこうしたかった、こうなりたかった。おかしくなりそうなぐらい好きなん

 だ、アンタのことが……」

  ――あぁ、ずっとこうしたかった、こうなりたかった。おかしくなりそうなぐらい好き

    なんだよ、君のことが……


 「俺を愛してくれ、和己……」

  ――僕を愛してくれ、……和己……


      
みたらい
  あぁ――御手洗の声がする御手洗の声がする御手洗の声がする――



 「――…あ、…あああっ……!」
                                  
 
  愛撫とは全く無関係の不自然なタイミングで僕は射精し、失神した。その後のことは、

 あまりよく憶えていない。



  真実の愛を知った夜だった。

  もう僕は、彼がいないと、生きていけない――





    
***
*******





 「――…何だって?」

 「――だから。ここを出たいって言ってるんだ。急な話なのは解ってるけど、このままこ

 こで暮らし続けることは彼にも君にも不誠実な態度を取ることになる。僕には、出来ない

 よ……」

  石岡君は妙にきっぱりとした口調でそう言い放つと茫然と佇む僕を捨て置き自室の中へ

 と入っていった。
      
 いえ
  彼が無断で家を空け三週間。捜しても捜してもどこへ行ったのか解らず、それでも心配

 し独力で捜し続け――なのにようやく帰ってきたと思ったら突然同居を解消したいと言い

 出した。

  この仕打ちはどうしたことだ。一体僕が何をしたんだ?

 “彼にも君にも不誠実”――…彼……? 男と一緒にいたってことか?
                 
 ドア
  寝室へと向かった彼を追い僕はその扉をノックした。返事を待たずに扉を開くと、彼は
                                     
  
 クローゼットの前に坐り衣服をあれこれと選別している。…どうやら本気でここを出て行

 くつもりらしい。

  僕は部屋の隅に立つと彼に向かって声をかけた。

 「石岡君、ちょっと待ちたまえ。いきなり同居を解消したいと言われてはいそうですかと

 いうわけにはいかないだろう。まずは落ち着いて理由ぐらいは聞かせてくれないか」

  いつもの調子で言ってはみたが心中は見た目程冷静でも穏やかでもいられない。
                                 
 あせ
  何よりも、僕を見る彼の“眼”が――…じわじわと僕の心を落ち込ませ焦らせていた。
    
えんお
  別に厭悪や嫌悪、不快感といったものを剥き出しにされているというわけではない。そ

 ういった悪意的なものは微塵も発されていないのだが……

 「理由……理由、か…――簡単なようで意外と難しいんだけどな……」
         
 はな
  まるで壁を相手に話しているかのような口調で彼は言う。例えようのないこの不安感、

 そう彼は――僕に対する興味や関心といったものをすっかり失ってしまったらしいのだ。

 どうしよう……こんな時、人は一体どうすれば良いのだろう……。

  そんな僕の胸中など知ったことかとでも言いたげに、彼は手の動きを休めるとこちらを

 振り返りこう言った。

 「――好きな人が出来た」

 「……何?」

 「その人と一緒に暮らしたいんだ、相手も僕と暮らすことを望んでる。だから……」

 「三週間の無断外泊の挙句に“その人と一緒に暮らしたい”だって? 結婚するわけじゃ

 ないんだろ?」

 「ああ、それはまぁ、そうだけど……」

 「相手は男だものね?」

 「……何故?」
  
さっき      
 「先刻言ったよ。“彼と君に不誠実”だと」

 「あぁ……」
                 
 
  言ったんだっけ、と彼は小さく息を吐いた。そんな様子さえ以前の彼とはどこか違う。

  彼は静かに苦笑すると僕の顔を見上げて言った。

 「じゃあ大体の事情は呑み込めたろ? そう、相手は男なんだ。軽蔑しても呆れても構わ

 ないよ、でも……本気だから。――…はは、どっちにしたって気持ち悪いだろ、同性愛者
            
  
 の友人なんて。だから……出て行く」

 「――ちょっと待てよ!」

  僕は思わずクローゼットの前に坐っている彼の腕を掴み、らしくない大声を上げた。
                       
  
  好きな男が出来たからそいつと暮らす為にここを出て行くだって? 全く何を言い出す

 かと思えば。冗談じゃない!

 「別に逃げ出すつもりなんかないよ、僕達の邪魔さえしなければ。でも触らないでくれ。

 痛いよ、放して」

  ――後頭部をスパナで思い切り強く殴り付けられたかのような衝撃を憶えた。“邪魔”
   
 さわ
 ? “触られたくない”? 今の言葉は僕に向かって言ったのか?
              
 さわ
 「あぁ、ごめん……違うんだ、触るなと言ったのはちょっとそこを怪我してるから……ご

 めん、でも僕には触らないで」

 「怪我をしているのか? 腕にも」

 「腕にも?」

 「――脚の様子がおかしいことは帰ってきた時から気付いてる。……OK、解ったよ、身

 体には触らない。でもその代わり……こちらの質問にも真剣な態度で答えてくれ。いい加

 減な説明だけで同居を解消されちゃ、それこそ不誠実だ。軽蔑も邪魔もしないわけにはい

 かなくなる」

 「…解った」
     
 けっ
 「僕だって決して物解りの悪い方じゃない、納得さえすれば君の人生の邪魔はしないよ。

 慌てることはないんだろう? とりあえず、そこのベッドに坐って」

  小さく頷く彼を見つめ、僕はデスクの椅子を移動させるとその上に足を組んで坐った。

 「さぁ、順序立てて話をしようじゃないか。三週間前に、何があった?」





   
**********





  御手洗は恐ろしい程真剣な様子でこちらの話に聞き入っていた。三週間前に僕に暴力と
                    
 
 恥辱の限りを尽くした男のこと、二人の間で為された会話、そして僕が彼を愛するように

 なった経緯について。

  出逢った頃からの習慣とでも言えばいいのだろうか、僕は訊かれもしないうちから大抵
      
 はな
 のことを彼に話してしまっていた。勿論性行為の内容については、詳しく説明もしなかっ

 たけれど。
                        
 
はな
  しかし何を言われても仕方がないという覚悟をして話したというのに御手洗は一度も口

 を挟むことをしなかった。真剣な表情をしてはいたもののその態度があまりに無反応だっ

 たのでもしかしたら仮面でも付けて眠っているのではないかと疑いかけてしまった程だ。
                         
わけ
  だが次の瞬間、彼がただ黙って僕の話を聞いていた理由が解った。彼は――僕が“自分
    
 はな 
 の意志で話し得る”情報を全て吐かせたかったのだ。言いにくい話であればある程、人は

 質問や意見を機に内容を選んだり口を噤んだりしてしまう。だから――…
 
 はな 
  話し終えて長く沈黙していると、御手洗は僕の顔を観察するかのように見つめ静かに言

 った。

 「今更僕が言うまでもなく解ってはいると思うが――石岡君、そいつはストーカーなんじ

 ゃないのか?」

 「…解ってる」

 「そう。そして彼はその上君を拉致して監禁してレイプした男だ。なのにそんな奴に…」

 「――だから解ってるんだってば、それは!」

 「…………」

 「でも好きなんだ、そりゃ確かに出逢いは穏やかなものじゃなかったかも知れないけど…
      
 はな
 …落ち着いて話してみて解ったよ、彼はとても優しくていい人だった。僕の怪我だって一

 生懸命手当てしてくれたし……」

 「――自分が負わせた傷の手当てだ、当然だろう」

 「……僕のことをとても愛していると言ってくれた。今回のことだって少しやり方は強引
        
 はな
 だったけど、僕と話したかった、その一心で…」

 「君を犯したかった、その一心で?」
                                   
くや
  御手洗は少し意地の悪い表情になり冷たく言った。僕はそんな彼の態度が口惜しくてす

 っと双眸を細める。

 「――…やめてくれないかな、それ……」

 「どれ? 拉致? 監禁? レイプ?」

 「全部だよ! 理解されないことは解ってる、理解してくれなくたっていい! だけど彼

 を悪く言うのだけは、絶対に…!」

 「“理解されなくたっていい、彼を悪く言わないで”か。――はっはぁ! 健気なことだ

 ね石岡君、どこで憶えてきた冗談だい?」
                           
かお
  御手洗は時折見せる“人を心底軽蔑してやまない”例の表情を作り声を出して笑った。

 ――これ以上の会話はもう無意味だろう、話にもならない。

  渇いた喉を潤したくてベッドから腰を上げると彼は席を立ち素早く僕の手首を掴み取っ

 てきた。――そこが一番痛い場所なのに。それとも、知っていてわざとやっているのだろ

 うか?

 「――話はまだ終わってないよ」

 「でも話すことはもうない」

 「訊きたいことがあるんだ」

 「その質問は僕の手首を握っていないと出来ないものなのか?」

 「君が逃げようとするならば」

 「水ぐらい呑ませてくれたっていいだろう?」

 「その彼だったら? 呑ませてくれた?」

 「呑ませてくれたよ」

 「…他のものを呑ませてくれたんじゃないの?」

  御手洗を睨み付けると眸の奥から涙が滲んだ。唇を強く咬み締める。

 「ベッドの上で喉が渇いたと言えばメニューを広げてくれたのかい? 催淫剤入りの酒と

 か、その彼氏の汗とか、精液とか……」

 「――いい加減にしてくれ。本気で怒るぞ」

 「勝手にどうぞ。こちらはもうとっくの昔に怒ってる。――彼女のことは? もういいの

 か?」

 「…彼は彼女のことを知らない。でも僕が素直に打ち明けたら赦してくれると言った」

 「君の気持ちを訊いてるんだ」

 「彼女のことは今でも好きだよ。だけど死んでしまった人間とは抱き合えない」

 「セックス出来ないから? 愛せない?」

 「本当に腕、痛いんだよ。放して」

 「今君の腕が痛いのはその“優しい彼”とやらに長く拘束されていたせいだろう? そん

 な男のところへは行かせられないよ。それにまだ納得もしていない」

 「――君にそんな権利、ないよ」
                                       ・・
 「あぁ確かに権利はないね、でも資格はある。石岡君、冷静になるんだ。彼の元へは行か
 ・・・
 せない」

  その言葉を聞いた瞬間、僕の潤んでいた眸から一筋の涙が流れた。
                   
 
  逢いたいのに……今すぐにでも彼の元へ行きたいのに。

 「――何故だ? 何故泣く?」
                   
 けっ
  御手洗は僕の涙に動揺しつつもその手を決して放そうとはしなかった。何故だって?

 理由は解っているくせに。

 「それはこっちの科白だよ、御手洗……どうして君は僕を行かせてくれないの? 彼は男

 だ、君の嫌いな女じゃない。しかも同性で、お互いにそれが解ってても、好きで…――こ

 こには君の言う打算も見栄も……本当に何もないんだよ……? …僕達はお互いを必要と

 し合っているだけなんだ、なのに君は、…どうして……」

  逢いたくて逢いたくて逢いたくて……哀しくて。次から次へと透明な涙が溢れ出す。

 「……目を醒ませよ石岡君。それとも、嚇されているのか?」
                
くや
  説明出来ない恋心が切なくて、口惜しくて。僕の前に立ちはだかる同居人という壁が―

 ―邪魔で。

  僕はつい言ってしまった。

 「……君には解らない……」

 「…何?」

 「君には解らない……人を愛したことがない君なんかに、今の僕の苦しさは!」

  僕は叫んでしまったのだった。言えば彼の心を深く傷付けてしまうのだと――理解は、

 していたはずなのに。





    
**********





  相手が女性ではなくて。
  りょうこくん 
  良子君のことを認めると言っていて。

  石岡君のことを深く強く愛していて。

  既に彼の心も身体も、手に入れていて――…
                                 
 すべ
  どうすればいいのか、解らなかった。僕の立場からは、彼を止められる術がない。
                              
 あせ
  彼を言葉と態度でじわじわと責めながら、それでも僕は心の中で焦っていた。“彼を止

 めなければ、彼を止めなければ”。…けれどよく考えてみると何故彼を止めなければなら
                           
 
ほお
 ないのかが解らないのだった。そうだ、何故僕は彼のことを放ってはおけないのだろう?
             
とき
  そんなことを考えていた最中、彼がまた僕に向かい“いつかと同じ科白”を吐いた。

 “人を愛したことがない君なんかに僕の気持ちは解らない!”

 “愛”って……何だよ?

 『君は人を愛したことがあるのか!?』

  ――愛って何だよ?

 『他人の身体を自分の身体の一部のように感じたことがあるのか?』

  ――あぁ…あるよ

 『俺は感じたぞ。この感じは、君などには解るまい』

  ――感じたよ、解るよ。どうしてそんな風に決め付けてしまうんだ?
           
いのち            
 いのち
 『あいつは俺にとって生命だったし、あいつだって俺に生命を賭けたはずだ』
             
いのち
  ――僕だって賭けたさ。生命に代えても君を救いたいと思った

 『だから君には、人の心とか愛情なんて、永久に解りはしない!』

  ――もし、この気持ちがそうならば……
                                  
いのち
 “他人の身体を自分の身体のように感じることが愛”なら、“相手の為に生命を賭けるこ

 とが愛”なら君に対するこの気持ちは何だと言うんだ? この想いこそが“愛”じゃない

 のか?

  理由はよく解らないけど、“出て行かせたくない”“放したくない”“一緒にいたい”

 “渡したくない”――…これは、愛じゃないのか?
              
 ねじ 
  僕は彼の手首を更に強い力で捻り上げるともう片方の手で肩を掴みその身体をベッドの

 上へと押し倒した。
  
 いた
 「…痛っ…――」

  当たり前だ。全身痣や傷だらけになった身体を乱暴に扱われ痛みを感じぬはずがない。

  僕は彼の身体をベッドに押さえ付けたまま言った。次第に精神が狂暴になっていくのが

 解る。

 「――そんなに見たいのならば見せてあげるよ。君の言う“愛”って奴を」

 「なっ、何を…――放せよ! 冗談は…」

 「冗談じゃない。君は彼にこうされて自分が愛されているのだと感じたんだろう? だっ

 たら僕も彼と同じことをするまでだ。僕が愛を知らない人間だと言ったことを後悔して貰

 う」

 「厭だ、嘘だろ…――やめてくれ……!」

  布が裂ける音を周囲に響かせ、僕は彼の肌を室内のライトに曝した。そのまま彼の両手

 首を片手でまとめ、破いたシャツできつく縛り上げてしまう。いくらか手当てをした形跡

 は見られるものの、彼の身体は見事に傷だらけだった。想いを通わせ合うまでの数日間、

 どれ程の苛虐を強いられていたのかが目に浮かぶようだ。

 「――何回やった?」

 「やめてくれ、頼む……何でもするから……」

 「何でもするなら大人しくしててくれ。何回やった?」

 「御手洗……」

 「答えられない程の回数なのか? それとも忘れてしまう程の回数なのか? 嚇されて何

 回やった? 合意で何回やった?」

 「あぁ……御手洗、お願いだ、他のことなら何でもする、だから……腹癒せにこういうこ

 とを、するのだけは…――」

 「――腹癒せ? …何を勘違いしてるんだ、僕は興味や仕返しでこんなことをしているわ

 けじゃない、愛してるから――君がこれを愛の証明だと信じているから、僕はその気にな

 っただけだよ……」

 「…嘘、だ…っ――」

  僕が乱暴に彼の衣服を剥ぎ取ると、彼は泣きながら「厭だ」「見るな」と呟いた。予想

 通り下半身にも目を背けたい程の傷がある。これが“愛の証”か? 彼は一体何を信じよ

 うと言うのか。

  強引に唇を吸うと、彼は心底耐えられないといった様子でぽろぽろと涙を流し続けた。

 厭だ、放してくれ、裏切りたくないんだ、裏切りたくないんだ――泣いて抵抗を示す彼の

 肌に無理矢理舌を這わせてゆく。

  僕はもう冷静さを失っていた。彼の身体を、反応を見た瞬間心のどこかが壊れてしまっ
           
 
いと
 たのだ。腹立たしさと、愛しさと、哀しみと、悦びと――色んな感情とが混じり合いただ

 目の前にあるものを手に入れること以外考えられなくなっていく。

  渡さない、彼だけは――…何があっても渡さない、その心を僕以上の存在で充たそうと

 するなんて、そんなことはこの僕が絶対に赦さない!

 「…厭、助けて、…あっ、…あぁっ! ――…っ…」

 「何をされた……? 三週間、時間はたっぷりあったんだろう? 君は彼に、何をした…

 …?」

 「してないしてない、何も…してないっ、……は、…――あァ!」

 「――嘘を吐くなよ。じゃあどうしてこんなに慣れてるんだ? どうしてこんなに悦ぶん

 だ? どうして僕は、君に――…」
                           
 
  もっと早く、こうしておかなかったんだろう。他の誰かに奪られる前に、何故もっと早

 く。

 「くそっ、…ちくしょうっ……!」

  僕は激しく暴れる彼に気遣いさえ忘れて挿入を果たした。だがそう神経質になる必要も
                       
くや
 ない程に彼のそこは慣れきっている。それがまた口惜しくて僕はかなり乱暴に動いてしま

 った。
           
  うわごと
  彼の悲鳴を聞きながら、譫言のように僕は呟く。

 「僕のものだよ僕のものだよ、君は僕のものだよ、出逢った時からずっと……」

 「あぁっ、…はぁっ、ん…――あっ、厭…ぁっ」
            
 
 「その声も……肌も唇も、眸も、髪も! 心も……誰にも渡さない、誰にも渡さない……

 !」

 「いっ……や……」

 「僕の…ものだよ…――ン、…」

 「――…ぅっ、ンンッ、…は! 厭だ、違う……違う違う違うッ! 僕は彼を…――あっ

 ! …あああああああ――っ!! 痛い…助、けて……」
                                    
 
  もう何がどうなっても構わない、このまま彼を殺してしまっても、他の誰かに奪られる
                         
 よぎ
 ぐらいなら――…そんな莫迦げた考えまでもが頭の中を過ってしまう。

  僕は彼の身体を強引に折り曲げ、思うままに抽送を繰り返し、狂人のように愛の言葉を

 囁きながら彼の全身にキスをした。

 「頷いてくれ……君は、僕のものだよね……?」

 「御…――」
                                 
 わず
  僕は言い聞かせるかのよう彼に言うとその反応を見守った。すると彼は僅かに血の滲ん
        
 あと
 だ唇を開きかけた後、一瞬だけその意識を――どこかへ、飛ばし。





    
**********





  完全なパニック状態に陥っていた。

  嫌悪、哀切、苦痛、屈辱、恐怖……恐怖、恐怖、恐怖。例えようのない破滅感。絶望。

  彼がこんなにまでも恐ろしい男だとは思わなかった。八年間も一緒に暮らしていて。ま

 さかその彼にこんなことをされるとは、想像もしていなかった。

  怖い、助けて、お願いだ、もうやめてくれ……!

  愛してもいない男に突き上げられ応えてしまう自責、恋人を裏切っているのだという背

 徳感に頭がおかしくなりそうだった。
    
とき
  その瞬間――
     
 
  彼が僕の眸を見つめ、言ったのだ。

 『頷いてくれ。君は、僕のものだよね?』

  僕は……一体、誰を愛したらいいんだ?
                   ・・・・
  ――自問した途端に涙が湧いた。あの恐ろしい光景が再現される。

 『愛してる、和
己……』

   『君さえいれば僕はもう何もいらないんだ。…本当
だよ……』

 『あぁ、ずっとこうしたかった、こうなりたかった。おかしくなりそうなぐらい好きなん

   だ、アンタのこと
が……』

     『僕を愛してくれ、……
和己……』



  誰……誰、誰、…――御手洗……?




 「――…あッ!? あぁっ……あああああ――ッ…!!!!」

 「…!?」

  僕の身体に貪り付いていた御手洗が悲鳴に驚き動きを止めた。僕はベッドの上で狂った

 ように叫び続ける。何度も。何度も。

  あぁ、僕は今誰に抱かれてるんだ、どうしてこんなことになったんだ、ここは安全な場

 所なのか、僕は……殺されてしまうんじゃないか……?

 「――…もう…厭、だ……ぅっ、あぁ…っ…」

 「――…大丈夫だ石岡君、縛ってごめん……」

 「怖いよ、僕は…っ……どうしたら、…赦してくれる……?」

 「ごめん、ごめん、どうもしなくていい、大丈夫だから……」

 「死にたく…ない……怖いよ、助けてっ……!」

 「――僕は君を殺さないよ。大丈夫、大丈夫だ」

  僕が悲鳴を上げ始めた途端まるで憑き物が落ちでもしたかのように大人しくなった御手
                 
 ほど 
 洗は、少し慌てた仕振りで僕の拘束を解き去った。
           
 
しめ
  もう室内に先程までの湿った空気は感じられない。あの羞恥を麻痺させるような熱気も、

 思考を掻き消してしまいそうなベッドの軋みも。――何もない。ただ、気怠さだけの残る

 静かな空間。
                              
 すが 
  僕はこちらを心配そうに見つめている御手洗の首に思い切り強く縋り付いた。……思い
              
きよし
 出した……思い出した、御手洗潔、彼は僕の親友。この人の傍にいれば僕は大丈夫なんだ

 った。あぁ、何故今までそのことを忘れていた?

  僕は恐怖のあまり――見知らぬ男に強姦された恐怖のあまり――彼を愛しているのだと

 思い込もうとしただけだ。



  僕は――あの男のことを、愛していない。



 「御手洗、僕は…――怖かったんだ、…あの時……」

 「…うん……」

 「本当に酷かった……――殺されるかと思った。身体中を細い紐で縛られて、大きなナイ

 フで嚇されて、…本当にあちこちに、浅い傷を付けられて……」

 「うん……」

 「愛してるって何度も言わされて……気に入らないと、殴られた、心がこもっていないっ

 て。…こっちが反抗している間は、ずっとそんな感じで……首、絞められたりね……」

 「うん」

 「抵抗するのに疲れた四日目か、五日目だったかな……急に君のことを、訊かれて……あ

 いつのことが好きなのかって……そういう関係じゃないって言ったら、少し機嫌が良くな

 って」

 「……うん」

 「もうどうでも好きにすればいいんだ、どうせボロ布みたいになるまで犯して殺すつもり

 なんだろうって…――考えて……」
    
わなな
  唇を戦慄かせ呟くと、御手洗は僕の身体を毛布に包みその上からふわりと抱き締めてく

 れる。「今慌てて全てを話すことはないんだよ」――彼は優しく言ってくれたが、僕の言
          
 なに 
 はな
 葉は止まらなかった。何かを話していなければ頭がおかしくなりそうで――怖くて、怖く

 て。

 「ただぼんやりと天井を眺めたまま彼に抱かれていたらふっと意識が遠くなって……気付

 いたら、僕は、…彼のことを…――」

  魘いくる吐き気に口元を押さえ双眸を閉じ合わせると、御手洗は僕の髪をさらさらと撫

 でてくれた。

 「もういいよ石岡君、もう大丈夫、解ったよ、解ったから……ごめん、……ごめんね……」

 「…僕、おかしいね……こんな風になっちゃって……――もう、まともじゃないよ……」

 「そんなことはないさ」

 「自分から拡いちゃうんだ……脚……」

  情けない科白を呟く僕に、御手洗は小さく音を立て口吻けをした。

 「――…怖い……?」
                
さっき
 「…うう…ん…――ねぇ御手洗、先刻の、本当……?」

 「――…ん? 何が?」

 「僕のこと……好きだって」

 「…愛してるって?」

 「……うん……」

  恥ずかしさと心苦しさと気まずさに顔を俯けぽつりと言うと、彼は僕の顎に指を掛け今

 度はより深く唇を塞ぎ取った。

  互いに離れ、眸と眸を交わし合い、彼は僕の両手を握る。

  今まで聞いたこともない程の真剣な口調で、彼は言った。

 「――本当だよ」

 「…――――」

 「本当だよ石岡君、愛してる。今まで自分の中で理解出来ていなかった感情の正体にやっ

 と気が付いたんだ、僕は……君と出逢ったあの日から、ずっと……ずっとね。君を、自分

 の一部のように感じていたんだよ」

 「…嘘……」
                         
  
 「ごめん、僕も君にとても酷いことをした、君がここを出て行くと聞いて、どうすればい

 いのか、解らなくなって……でもあの混乱と息苦しさの理由が今なら解る。君は僕の半身

 なんだ、君は僕の身体の一部なんだよ。無理に切り離せば血が流れる。もう、生きていけ

 ないよ……」

 「…っ、――――」

  思いがけない告白に、またぽろぽろと涙が溢れた。彼がここまで僕のことを想っていて

 くれたなんて、知らなかった、知らなかった。

  そして僕も――…彼にそう言われてこんなに幸せな気分になれるなんて、安心出来るな

 んて。こんなことが現実になるなんて……思って、いなかった。
                                  
  ひざうえ
  僕はすっと自分の身体から毛布を外すと、ベッドの上に坐っている御手洗の膝上にゆっ

 くり顔を近付けた。
           
 よご
  深く瞼を閉ざし体液で汚れたその箇所へ、そろそろと舌を差し出す――…





    
**********





 「い、…石岡君……?」

  ようやく僕の想いを受け入れてくれたらしい彼が突然取った行動に、正直唖然としてし

 まった。

  もういいのに。何をする気もさせる気もこちらにはないのに。彼は僕の男性器に怖ず怖

 ずと指を掛けるとそこに小さく口吻けたのだ。

  まさか振り解くわけにもいかず僕はされるがままにしていたが、こんなことを彼にさせ

 たいとは思わなかったし、何より自ら進んでそんなことをし始めた驚きにかける言葉を失

 ってしまった。

  彼は頬に羞恥の色を浮かべながらも舌と唇で僕の生殖器を愛撫し続けている。行為を止

 めようにも卑しい欲望が現状の維持を望んでいることもまた確かな事実だった。少しだけ

 自分を軽蔑する。
           
 よご
 「…ごめん、御手洗……汚れてる……多分僕の血だ、これ……」
                   
こえ
  ――頭がクラクラした。彼の表情と、吐息と、舌の動きと。全てが僕の理性を不安定に

 させている。だが冷静な自分は彼の科白に異を唱えた。

  もし僕のペニスに彼の血が付いているなら悪いのはこちらではないか。何故彼が謝る?

  そして彼がこんなことをし始めた理由に見当が付き、僕はまた苦々しい気分を味わった。

 …そう、彼はこうしなければ酷い制裁を加えると嚇され続けていたのだろう。“例の男”

 に――…
      
 わず
  想像すると僅かに気持ちが悪くなり、僕は彼の愛撫に大きな反応を示さなかった。この

 態度は彼にとって納得のゆくものだったのか否か、暫くして舌を離すと、彼は僕の胸に頬

 を寄せる。

 「――…怖い……どうして僕、あんなに怖い男を愛しているなんて思ったんだろう……本
            
さっき
 当に好きだと信じてた、先刻まで……こんなに優しい君に酷い言葉まで、投げ付けて……」

 「恐怖心がさせたことだよ。元に戻ったのなら良かった。もう心配しないで」
             
              あす
 「ねぇ僕は……その廃工場に行くことになってるんだ……明日の午後三時に。それまでに

 君を説得して、ここを出るつもりだった。でも……行きたくないよ……僕はこのまま、こ

 こにいたい」

 「――当然だね。行く必要はないよ」

 「でも行かなくちゃ、多分…――」

 「殺される?」
                             
きみ
 「…かも、知れない。あのね……実は向こうもこっちには“御手洗潔”がいるってこと、

 警戒してたんだと思うんだ。本名すら……教えては、くれなかった」

 「名前は呼んでなかったの?」

 「“シン”って呼ばされてた。…それだけ」

 「そう」

 「どうしたらいいんだろう、僕は…――よく考えたら向こうのことは何も知らないけど、

 向こうはこちらの事情を大方知ってるんだよね。もし怒らせでもしたら僕の周囲の人間に

 も、何をするか解らない……」
                                    
 
  心底沈痛な面持ちでそう呟くと、彼は小さく苦笑しながら「やっぱり……僕が行くべき

 なのかな……」ととんでもない科白を口にした。そんなことは死んでもさせられない。

 「石岡君、今彼は君のことを信じていると思うかい?」

 「…恐らく。だって僕は、二週間もの間、彼と――…」
                             
          
 「あぁそうか。解った、もういい。…じゃあ君、これから数時間後に僕と一緒に散歩へ行
         
あす
 こう。大丈夫――明日は廃工場へ行かなくていいよ」

 「――…何をするつもりだ……?」
                                       
 いの
 「――別に。ちょっとした運試しさ。……安心して、危険なことは絶対にしない。僕の生
  
 命は賭けないよ」






    
 
  数時間後。電話でタクシーを捕まえた僕は石岡君を戸部署へと連れてゆき、得意の口八
     
あす
 丁で彼を明日の夜までそこで預かって貰うことにした。本当は警察の手など借りたくはな

 いのだが“犯罪者から身を隠せる最も安全な場所”といえばまぁこの辺りが適当だろう。

  僕は不安な表情を見せる彼に“信じて待っていて欲しい”と短く囁き、一時期二人の愛

 の巣であったのだという廃工場へと向かった。全室調べてみたが人の気配は全くない。…
 
あす
 明日にならなければ姿を現さないということか。
                
 
  彼が拘束されていたという部屋へ行き粗末なベッドに目を遣ると、天地のパイプに金属
   
 こす
 や紐で擦った痕が見えた。傍に置かれた木箱の中には多分完璧なのだと思われる彼の著作

 のコレクションが並ぶ。……何とも遣り切れない気分だ。

  まるで迷路のような廃工場だったのだと――石岡君が、言っていた。成程、この部屋へ

 辿り着くには三つの手順を踏まなければならない仕組みになっている。

  一度一階にある第一リフトで五階まで上がり、今度は左隣にある第二リフトで二階まで

 戻り。最後はその階にしか存在しない階段で三階まで上がらなければこの“隠し部屋”は

 見つからない。こんなもの、一体誰が何の為に造ったというのだろう。それとも、第三者

 の手によって改築か細工でもされたのか。

  僕はリフトを一階に降ろしたまま階段で五階まで昇ると、ジーパンのポケットから携帯

 バーナーを取り出した。“ワイヤーの劣化により廃工場のリフトが墜落”――…世間には
           ・・
 極ありふれた、不幸な事故だ。

  一階リフト脇にある鉄壁に『使用禁止・危険』という注意書きを貼り付けると僕は颯爽

 と石岡君の待つ戸部署へと戻った。

  ――まぁあんなに暗いところに貼ってある紙切れなんて、誰も気に留めはしないだろう

 けどね。







  そうしたわけでとりあえずの平穏を手に入れた僕達の和やかな同居生活は持続された。
   
 
  事件後は暫く怯えを見せていた彼も次第にペースを取り戻し、相変わらず僕の世話を何

 くれとなく焼いている。

  ただ――…

  僕が一つだけ気になるのは、あれ以降の彼の様子が微妙に変わったように思えることだ。

 別に毎日のようにねだってくるわけではない。けれど時々気が付くと彼は僕のことを酷く

 熱っぽい眼差しで見つめ誘うような仕草で愛の言葉を囁きかけてくるのだ。

  そんな時はこちらとしても興味のない相手が誘いをかけてきているわけでなし、特に用

 事がなければまぁ二つ返事でそうしたことに応じてしまう。だが……

 「――…あぁ…好きにしていいよ、何をされても……僕は君なら構わない。……愛してる

 ……君のことだけ。愛してる……」

 「…………」

  どうにも奇妙な違和感を感じるのだ。彼はこういうことに関しては比較的淡白な男だと

 思っていた。――考え過ぎだろうか? 恋愛中だから変化が顕著に見えているだけなのだ

 ろうか?

  現状に不満があるわけではない。でも……

 「…殺されてもいいんだ、君にだったら……怖くない。……怖くないから……」

  ……どうにも奇妙な違和感を感じるのだ。僕は彼を引き止めたあの日――彼と初めて身
      ・・・
 体を繋いだあの日――彼に過剰な恐怖を感じさせはしなかっただろうか? 彼の精神に歪

 みを与えてしまう程の恐怖を味わわせてはしまわなかったろうか?



 “被害者が加害者に対して友情や同情、愛情を持つという症候群”

 “被害者の自己防衛本能が働き加害者を良い人間なのだと思い込もうとする心理”

  ――ストックホルム症候群――?



 「――…まさか……」

  しかし考えてみると例のストーカーに対してもこの防衛本能は働いていた。今の彼が全
                        
 すべ
 く正常であるとは言い切れない。だがそれを確かめる術はないのだ。彼自身が盲目的に僕

 への愛を信じ込んでいるのだから。

 「…石岡君、君は今……幸せなのかな……」

 「――…幸せだよ……」

 「……そう……」

  その気になれば――調べられないことはないかも知れない。でもそうするのはこちらが

 怖い。彼に存在を拒絶される、いや、それは回避出来たとしてもこの愛を手放すこと自体

 が僕にはもう耐えられない。

  彼が潤んだ眸で窺うようにこちらを見上げる。

 「……どうかした?」

 「……ううん。ううん……別に。何でもないよ……」
                          
 わず
  薄く苦笑し呟くと、彼が静かに微笑んだ。形の良い唇が僅かに開く。


                              
 なん
  ――所詮“愛”なんて思い込みや勘違いの御同類だ。きっかけが何であろうと、別にど

    うってことはないさ……


  ソファに並び坐っている彼の唇を見つめると、甘く誘うようなその色に抗い難い欲が起

 こる。
                   
 いと
  僕はそっと彼の頬を右手で支え、世界一愛しい恋人に長く長く口吻けた。











いや、大丈夫ですよ御手洗さん、
石岡君は嚇されて貴方のものになったわけではありません
(ストーカーを受け入れる直前に“想像した人”が彼の本命だったようです
←読者様もこれで安心?:苦笑)。
そもそもこれは“石岡君ってストーカーとかに狙われたら簡単に監禁されちゃいそうだな”
“石岡君が男の恋人を作って馬車道を出て行きたいと言ったら御手洗はどう反応するんだろうな”
という二つのテーマを組み合わせて創ってみた物語だったのですが……
何気なく書き始めてみたら、何てまぁ酷い話に!!
(御手洗さん、石岡さん、本っ当〜にごめんなさい!!:笑)
書いてる最中、今回はもうずうっと思ってました。
 
こんな話、一体誰が喜んで読むんだよ。
 
予定より二〜三倍は長くなっちゃったし。
って言うか…――石岡君、御手洗を本気で拒み過ぎ。
書いてて自分でも哀しかったよ〜……
でもまぁこんなシチュエーションもちょっと珍しいなと思ったので、
結局最後まで書き上げちゃいました。
いやもう何かマジで……ごめん(笑)。




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