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性描写(分類C)
【 ≪水晶のピラミッド≫と併せてお読み下さい 】


‖ 上記注意書きに危険を感じられた方はこちらからお戻り下さい ‖


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愛情系 017-1 / TYPE-S

哀の歌降り続く、この儚き夜空に
あいのうたふりつづく、このはかなきよぞらに






 『ああ、もうこんな時間か……電車がなくなると厄介だ、そろそろ帰らなくちゃ』
       
 みたらいくん
 『やあ来たよ、御手洗君。…あれ、ちょっとやだなぁ、もしかして寝ちゃってる? ――

 おーい、そんなところで寝てたら風邪ひくぞー』

 『あーあ、君がこんなに度を超した不精者だとは思ってなかったよ。……この同居、失敗

 だったかも』
             
あいそ
 『もーう今度という今度は愛想が尽きた! 君とは今日限りで絶交だ! 今回こそは本気

 だからな! ろくな食事が出来なくなって飢えて死んでも知らないからなーっ!!』



  雨の中。全身そぼ濡れたまま静かに双眸を閉ざす僕の耳の奥で様々な彼の科白が響いて

 は消えてゆく。

  ある一人の男の言行に自分が左右されているのだと気付いたのは、それを疑問に思い始

 めたのは一体いつのことだったろうか。

  そして――“その感情の名”に、思いが至ったのは。


                    
いのち
  とても可愛がっていた犬が僕の腕の中で生命を終えた一九八六年八月。

  僕は、自分の無力さ故に救うことの出来なかった犬に友人の未来を見た気がして、どう

 しようもなく、自分を責めた。





    
**********





  雨は酷くなってゆく。

  ずぶ濡れになり歩き続ける僕を時折憐れげに人々が振り返る。

  だが少し俯き加減に、頬に長い前髪を貼り付けて進む僕の頭の奥底では。

  二人の男がせわしない呼吸を繰り返し裸で縺れ合っていた。

  想像の中で――

  彼の唇を吸う。彼が少し唇を開く。そこに僕はゆっくりと舌を挿し入れる。長くて深い

 口吻けが始まる。
               
 さそ
  白い肌が上気して熱を帯び僕を誘う。滑らかなその肌を指で辿りいくつもの鬱血の痕を
                            
 しと
 刻み付ける。反応に羞恥する彼と満足気に微笑う僕。とにかく湿った身体でただただ互い

 を抱き合いながら安心とか充足とか幸福とかそんな感情に包まれる。
                                     
  だんせい
  僕の両手が彼の脚を大きく割り濡れた性が肉を貫く。腰を掴み前後に揺すると低い男声
 
 うめ
 が呻きを洩らす。それでも僕は動きを休めず更に激しく彼を揺さ振る。ああ何て厭らしい
 
かお                                  かお
 表情をしてみせるんだろう彼はなどと思いつつ自分もかなり余裕のなさそうな表情をして
                   
わら                 
 まちなか
 いることに気付き想像の中の僕が小さく苦笑う。ぼんやりとそんなことを考えながら街中

 を歩いている自分を心底から滑稽だと思う。

  もういいよ達きたい達かせてと呟く彼の声に煽られ雨に濡れたジーンズの前がギンと硬
                                
 
いえ
 く張り詰めた。いつまでもこの想像の中で溺れていたいが早く彼の待つ家へは帰らなけれ

 ばならない。



  ――夢だ、と思う。

  こんな想像を現実にしてはいけないと強く思う。

  例え彼の肌が甘くても滑らかでも暖かくても。彼とだけは、永遠に身体を交えてはなら

 ない。だって――
     
 
  僕が彼を抱き

  彼が僕を受け入れ

  二人で愛し合ったとして――

  それで一体どうなる?
              
 あと             とど
  訪れるのは、束の間の情熱の後の不自由さと虚しさ、そして留めようのない悲劇だけだ。

  閉じた瞼の裏で僕と彼が後戯のキスを始めた。ああ、一人でいるからこんなことばかり
         
 いえ
 考えるのだ。早く、家へ帰らなければ。





    
**********




 
いしおかくん
 『石岡君、思うんだが、君は僕といることで知性の退化現象が起こっている。僕といるこ

 とが、決して君のプラスになっていない。そのことがとても心配だ』



  口にした時、僕は“ああこれでもう後戻りは出来なくなってしまった”のだと強くそう
                       
  シナリオ プレリュード
 実感した。随分と始めるのに勇気のいった“別れへの台本”の序曲。この科白を口にした

 この時この瞬間から僕等はじわじわと最終のシーンへ近付いてゆくのだ。

  ああ本当は――
                            
 そば
  別れたくないよ離れたくないよ放したくないよずっとずっと傍にいて君のことだけ考え
                  
いのち
 て君の匂いに包まれて暮らしたいこの生命を終えたい。

  僕の言葉にそんな風に傷付く君を見たかったわけじゃない――本当は僕の言葉で、声で

 君の心を癒したいんだ。君がずっと笑顔でいられるように、君を優しく穏やかな愛で包み

 たい。

  でもそれは駄目なんだ。二人の間でリラリラと鳴り響くピエロの人形を従えた回転木馬

 のオルゴール。

  何故『エアジン』なんだ、何故あの女にこの曲のことを話すんだ。

  誰に報われることもなく虚しく踊り続ける憐れなピエロ――まるで、今の僕のような。

  こんな最悪な気分の時に事件の解決など出来るはずがない、そんなつまらないことで彼

 との残り少ない時間を使ってしまいたくはない。

  なのに二人の思い出を奇妙な形に歪ませたメロディを残し彼は彼女の元へと向かってし

 まった。ああ何てうるさい箱だろう、彼女の想いと共にこの足で踏み潰してしまいたい。

  だが僕にはそれすら出来ず、結局は二人の元へ足を向けることとなるのだ。

  僕は憐れなピエロだから。
          
 けっ
  彼の必死の哀願には決して逆らえはしないから。
                           
 いと
  雨の中でそぼ濡れる女に向かい傘を差し出そうとしている愛しい君。

  時々――僕は思うんだ。

  可哀相な可哀相なレオナ、僕みたいな男と出逢ってしまったが為にこんなに冷たい雨を

 浴びることになった。

  早く僕のことなんか忘れてしまえればいいのにね。だって不幸な僕に君を幸せにするこ

 となんて出来るはずがないんだから。

  そして……

  時々。

  その純粋さを無防備さを無邪気さを、浅はかさを心底から憎いと思う。

  ――石岡君。

  その謙虚さが、平穏を望む心が無罪であるのだと信じているならそれはとんでもない傲

 慢だ。
                                       
 さっ
  絶世の美女とまで謳われる女をも冷たく拒絶する僕を禁欲的だと君は言うけど。つい先
  
 刻まで、僕は莫迦みたいに必死になってこの性器を君の中へとブチ込んでいたんだぜ? 

  責めるなよ。

  レオナの愛を受け入れない僕をそんな風に責めるなよ。

  僕の愛を受け入れない君を誰も責めたりしないじゃないか?

  僕ばかりが非人情みたいにそんな目で見ないでくれよ。

  石岡君――この頭の中を、胸の内を全て見せることが出来たなら僕はどんなにか救われ

 ることだろう。

 『君のような人物とは関わりたくない』

 『君は危険人物だ』

 『僕等は生きる世界が違う』

  ――レオナにだけ言った科白じゃないんだぜ?





    
**********





 『キスして』

  レオナが祈るように呟いた。

  拒む男は愚かだと人々は口を揃えて言うだろう。だが受け入れることはどうしても出来

 ないのだ。

  心の中に咲く花は、僕を本当に傷付け、苦しめ、絶望に突き落とせるのはあの男しかい

 ないから。

  ――レオナ。

  君の愛がもし永遠に変わらぬものだと言うのなら、僕等はきっと“同志”なのだと思う。

 『お願い、もう二度とこんな要求はしない。一度だけ、一度だけ、キスして……、お願い

 ……』

  しかし僕は額にキス。これ以上は譲れない。

  ……すまないレオナ。

  僕を本当に愛しているなら、僕を本当に理解したいと望むなら今のこの苦しさも共有し

 てくれないか。

  彼女が愛の歌を歌う。

  僕はそれを黙って聴き賞賛の言葉をかける。

  そんな僕達を少し離れた柱の影から彼が見ている。

  僕と彼女の涙は切ない雨と雪になり、叶わぬ愛の哀しみを、地上に降らせ続けた。











この小篇は他の作品の執筆中に突然頭の中に現れたイメージを慌てて書き留めたもの。
これを完成させたことによって≪水晶のピラミッド≫パロディ
≪日本・横浜1 ―御手洗潔ヴァージョン―≫と≪日本・横浜1 ―松崎レオナヴァージョン―≫を
書く必要がなくなってしまいました(内容はタイトルから御想像の通り。
石岡さんの語りで進んでいた物語を他の視点から形にしようと思っていたのです。
本当は御手洗さんの一人称を“俺”にし
友人のことを“ファーストネーム”で呼ばせたいと企んでいたのですが……
≪魔神の遊戯≫を読み終えた今となってはそれも断念。
ちくしょう御手洗……面んない奴め……:笑)。
――いつもいつも昏い話ばかりで申し訳ありません(涙)。



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