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【 ≪斜め屋敷の犯罪≫≪異邦の騎士≫≪眩暈≫のネタバレを含みます 】

‖ 上記注意書きに危険を感じられた方はこちらからお戻り下さい ‖


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愛情系 002-1 / TYPE-C

御手洗潔版≪深読辞典≫
みたらいきよしばん≪ふかよみじてん≫






 「――と、いうわけで君!!」
                        
みたらい
 「うわあっ、びっくりしたっ! ――なっ、何だよ御手洗、何で僕の部屋の中にいるんだ

 !?」

 「何でも何もない、いたいからいるに決まっているだろう」

 「答えになってないよ! 大体僕はドアに中から鍵をかけてずうっと机に向かってたんだ

 ぞ!? 一体どこから入ってきたんだっ!?」

 「ドアに鍵をかけていたというなら窓という方法がある」

 「この部屋に窓なんかなーい!!」
                           
  いしおかくん
 「ああ、そういえばそうだったね。――…フッ、フッフフフフ石岡君、君は何から何まで

 何てお約束な人なんだろうね! この部屋は実に監禁向きだよ!」

 「はぁっ!? 誰が誰を監禁するって? …そんなことより本当にどうやって入ってきたん

 だよっ!?」
                              
きよし
 「ははん、そんなこと! 石岡君、僕は天下無敵の名探偵・御手洗潔だよ? 密室破りの

 プロだよ? そんな僕に開けられないドアなんてあるもんか!」

 「あっ、そ、そっか……」

 「――うっそ☆ 僕が得意なのは人の頭脳が作り出した密室破りだけだよ〜、中から人の

 手によってかけられた鍵の開け方まで知るもんか」

 「何ぃっ!? じゃどうやって入ってきたんだ!」

 「実は合鍵を作っちゃいました」

 「いっ、いつの間に……!」
        
あいだ す  と
 「君が眠っている間に掏り盗って作って貰ったんだ。別に大したことじゃないよ」

 「大したことだよ! 一体何だってこんなことをするんだ!」

 「愛故のことさ、決まっているだろう?」
                       
 なん
 「あっ、愛って……――えっ、何だって? 愛って何のことだ?」

 「何だも何もない。――僕がね」

 「うん」

 「君のことをね」

 「うん」

 「特別な意味で愛してるってことだよ」

 「うん……――えっ? ええ――っ!? ちょっと待てよ! 何で!? 何でそんな話になっ

 てんだ!?」

 「何だい、おかしな人だな。しかし――あはははは! やはり気付いてなかったか!」

 「えーっ、嘘っ、何だってまた急にそんな展開になったんだ!」

 「急にじゃない、ずうっとそうだったんだよ、君が気付いてなかっただけで。世界中のど

 こを捜しても僕程のカズミストはいないぜ?」

 「君にだけはそんなこと言われたくない……大体ずっとって何だよ? いつからだよ?」

 「いつからだって? いつからってねぇ君、…はっ! あっははははははは! 君は本当

 に愉快な人だな!」

 「君は全く以て不愉快な奴だよ、何がそんなにおかしいんだ」

 「だってそんなこと今更……多分気が付いていないのは世界中で君一人ぐらいのもんだぜ

 ? …んー、もぅ仕方ないなァ。じゃ、今まで僕が君に示したアプローチの一部を簡単に

 説明してあげようか?」

 「ああ、出来るものならば是非やってみせてくれよ、僕はこの十数年の間君に莫迦にされ

 た記憶はあっても愛情を示された憶えなんかただの一度もないんだから」
     
 なに
 「君はまだ何かの冗談だと思っているようだがそんな考えでいると真相を知った時に驚く

 ことになるよ。
               
みんな
  …まあいい、それじゃあ読者の皆にも解り易いように刊行順にいってみよう。まずは
 せんせいじゅつさつじんじけん
 『占星術殺人事件』から!」

 「せっ『占星術』!? そんな昔っからなのか!?」

 「そんな昔もこんな昔もないがとにかく第一作目! これに関してはもう始めっから僕の

 本心を曝け出しているというのに、愛好家の皆さんからも非常に指摘が少ないね」

 「『占星術』の始めって……何言ってんだよ? 君は初登場にしていきなり鬱病だったじ

 ゃないか。人が渡した資料も読めないとか言って結局全部僕に説明させたくせに」

 「あー、やっぱりそう思ってる。鬱病は本当だがね、あれは本が読めなかったんじゃなく

 て君に説明させる為だったんだよ」

 「えっ、何で?」
                                     
すいしょう
 「そんなの君の声を聴いていたかったからに決まっているじゃないか。いやー、『水晶の

 ピラミッド』事件の時も思ったけどあれは個人教授のようでなかなか気分が良かった。君

 が小学校の先生だったら知っている内容の授業でも退屈しなかっただろうにな! …なー
                     
さいちゅう
 んてことを考えていたものだからついつい話の最中に君のことを“先生”だなんて呼んで

 しまったわけだが。ギャグと解釈したのかノッてきてくれて嬉しかったよ」

 「あっ、あれはそういう意味だったのか!?」

 「そうだよ先生」

 「で、でも……君はいつだって僕が事件の説明をしている時に僕の考えを否定するような

 ことばかり言ってくるじゃないか?」

 「一生懸命授業をする大好きな先生を頭の良い生徒が虐めるというのは学園ラヴコメの王

 道だろう」

 「ラヴコメとかいう単語を君の口から聞きたくはなかったな……」

 「さて次。あの事件に関しては“君が就職しようとしたのを僕が寂しくなるから止めた”

 だの何だのという一文が特に注目し囁かれているらしいが今僕が言いたいのはそういう解
                 
 
 り易いものじゃないからそういうのは放っといて例のホームズネタ! 憶えているかい?
              
  
 僕がホームズ先生を目茶苦茶に扱き下ろしちゃったアレだよ」

 「ああ、あれ……あれは実際頭にきたなぁ。僕物凄く好きだから、ホームズもの」

 「ほら、それだ!」

 「えっ、な、何……?」

 「君がそう言うから僕はホームズの粗捜しをしなくちゃならなくなったんだ! …いいか

 い石岡君、助手は探偵を尊敬していなくちゃいけない。いや、尊敬まではしなくてもいい

 が少なくとも好意ぐらいは抱いていないといけないものなんだよ。そう、シャーロック・
     
 あが                 あけち こごろう     こばやしよしお
 ホームズを崇めるジョン・H・ワトスンのように。明智小五郎に心酔する小林芳雄のよう

 に! ワトスン博士を見たまえ、彼はホームズがどんなにおかしな行動に走ろうと絶対に
                               
 けっ
 狂人だなんて言わないし、外見に関してだってチョビ髭野郎だなんて決して書きはしなか

 ったろう? なのに君はどうだ、僕のことを気違いだのもじゃもじゃだの……」

 「だって嘘は書けないじゃないか……仕方ないだろ」

 「仕方なくないっ! 僕が言っているのはこの髪がストレートだと書けという意味じゃな

 い、その表現が気に入らないと言ってるんだ! おばちゃんパーマみたいだろ、そこだけ

 見ると!」

 「だってそんな感じなんだもん。…言っておくけどこれは表現力の問題じゃなくて表現法
            よしきたけし
 の問題だよ。もし僕が『吉敷竹史シリーズ』を書くことになったら彼の髪型はウェーヴだ

 って表現する」

 「だからってもじゃもじゃっていうのは…――もじゃもじゃはなァ――!」

 「御手洗君、話ズレてる」

 「ふん、まあいい、この話はまた今度じっくりやる。君がちょっと直毛だからっていい気

 になっていられるのも今のうちだから憶えとけよ」

 「御手洗君、子供口調になってる。しかも君はそんなんで本当に僕のことが好きなのか?」
                                 
 えもとくん 
 「ああ、好きだとも! 同じ部屋で眠るのが辛いぐらいにね! 大体僕が江本君ン家に帰
                           
ふじなみてい
 ってこなくなり哲学の小径で寝ていたのは何故だと思う? 藤並邸でにわとりを解体しな
              
 じんないや
 がら何を考えていたと思う? 陣内屋さんを一人で抜け出し浮浪者の皆さんと酒を呑んで

 酔っ払っていたのは何故だと思う!?」

 「うっわ、ちょっと待ってよ御手洗君、怖い怖い。…えっ、何何、それって事件捜査の為

 じゃなかったの?」

 「うわー、もうこれだからな君は!! 隣で寝てると手ェ出しそうになるからに決まってい
         
 ぶとうびょう
 るだろう! 大体『舞踏病』事件の時なんか別に彼等から情報を聞き出すのに僕まで酒を

 呑む必要はないじゃないか!」

 「いっ、言われてみれば……じゃ、あれは……?」

 「君が僕の隣で呑気に眠っているのが切なくてヤケ酒呑んでたんだよ! でも全然酔えな

 かったけどね! で、君がそんなところにひょっこり現れて僕が酔っていると勘違いした

 もんだから役得とばかりに抱き付いてみたんだけどね、君は僕を思いっ切り突き飛ばして

 くれた。……あれは結構ショックだったよ……」
        
  ひし
 「だからあんなに打ち拉がれていたのか……!?」
                               
 なな  やしき はんざい
 「石岡君、何を驚いているんだ、こんなのはまだ序の口なんだよ。『斜め屋敷の犯罪』―

 ―これは何故未だにこの件が有名でないのかが僕には不思議で堪らない。君、斜め屋敷に

 ゴーレムという人形があったのを憶えているかい?」
             
  りゅうひょうかん
 「うん。ちなみに斜め屋敷は“流氷館”、ゴーレムは“ジャック”っていうのが正式な名

 前なんだけどね」

 「名前なんて下足札みたいなものだ、そんなことはどうでもいい。――で、僕はあの時、

 人形の身体に君の服を着せたろう?」

 「うん……“あまり着たくないと思っているジーンズの上下を僕が旅先に持ってきている

 ことをどうして君が知っていたのか”という点を愛好家の皆さんは大変気に懸けているよ

 うだけど……?」

 「甘い!! それも確かにそうだろうがポイントは実はそこじゃない! よく考えてみたま

 え、何故僕はあの人形に服を着せた?」

 「ええと、それはあの人形に…――――ええ――っ!? ちょっと待てよ御手洗! あのジ

 ーンズの上下どこにやったっ!?」

 「さあね〜、どこでしょう♪」

 「まだ持ってるんなら返せよっ!!」

 「もうあまり着たくないんじゃなかったの?」

 「そういう意味で持ってるんだったら厭だよ! 返してくれ!」

 「お断わりだ、第一級クラスのコレクションなんだから。ふふん、これはねぇ〜、本当に

 巧いやり方だったよねぇ。君の服を堂々と着れる上に事件も解決出来て正に一石二鳥! 

 思い付いた時には我ながら天才じゃないかと思ったよ。でも全部君の服っていうのも露骨

 だしね、それで色んな人の服を借りることにしたわけだ。勿論他の人のシャツなんて着た

 くはなかったから一番下に着るものは自分のセーターにしておいて――」

 「けっ、計算され尽くしてる……!」

 「も〜う犯人捕まえるとか何とか言う前に君の服着れることが嬉しくてね、それがあの楽

 しそうなハミングだったのさ」

 「う、うう……何だか穢された気がする…――ああっ、でも! 君さ、京都でも江本君の

 上着着てたことあるじゃないか? ほら、僕が何度も注意して脱がせたら今度は自分のを

 着てきたあの時! あれは一体どう説明するつもり? …君さぁ、僕のだからどうとか言

 う前にそういう癖みたいなものがあるんじゃないの?」

 「――――…う〜ん、言い訳してもいい?」

 「どうぞ」

 「それは君に注意って言うか、嫉妬されたかったんだと思う。『何で江本君の服着てんだ、

 どうせだったら僕のにしろよ!』とか」

 「言う訳ないだろう。しかも自分のことなのに“思う”って何だ」

 「何だい、今頃ヤキモチかい」

 「ヤキモチじゃない、単なる疑問だ」
               
 すうじじょう      みやたくん
 「ふーん、そうは言っても君は『数字錠』事件の時に宮田君をちょっと羨ましがってたじ

 ゃないか」

 「あ、あれは別に……」

 「あれだって君の反応を見たくて彼にばかり優しくしてた部分が少しはあったんだよ。事

 件そのものは非常に辛いものだったが君はなかなか可愛かった」

 「…………」

 「面白かったね」

 「…………」
       
 しっそう  ししゃ                     くまのみど
 「さて、次は『疾走する死者』事件。これは記述者が君じゃない上にこの熊野三戸タクミ

 って奴がまたもや僕のことをもじゃもじゃと表現していて何とも不愉快な短篇だが――」
                    
 
くまのみどたくみくん
 「もう髪の話はいいから。しかも彼の名前は隈能美堂巧君だし」
                                  
いとい
 「でも僕はこの話を見て学んだね! 第三者の視点から見ると僕達二人は糸井さん達より

 も余程夫婦のように見えるのだということを!」

 「“二人の仲は決して上々とは言えないように僕には思えた”って書いてあったよ」
                            
 うそ
 「そりゃこいつの眼力が本質を見抜く力がないからだ。大体『嘘でもいいからシリーズ』
     
 すずきたかこ
 の探偵役は鈴木孝子という女性の方で彼は君と同様口先ワトスンじゃないか。この短篇の

 中での君は“僕に強いことを言うが根は従順”というちょっとイイ奥さん的な役割を物の
   
 こな
 見事に熟していたよ」
   
 なん
 「……何かさり気に色んな悪口入ってなかったか? 今の発言」
                          
 きんきょうほうこく
 「そもそも君ねぇ、どうして『SIVAD SELIM』『近況報告』辺りにも書いてい

 たように僕が君と二人の時に演奏を断わったり豪華なディナーを避けているか解るかい?

 例えばだよ? 二人っきりの馬車道のマンションでこの名プレイヤー・御手洗潔が本気で

 君のリクエスト曲を弾いたとしよう。そしたら僕等はどうなると思う?」

 「どうって……別にどうもならないんじゃない?」

 「なるよ! って言うか僕がなっちまうさ! 君ね、『疾走する死者』事件で僕が『エア

 ジン』を弾いた時のことを思い出してみろよ。僕がちょっと気取り気味に『懐かしかった
                               
よそ  ち
 ろう?』って言ったら! 君は! 涙を流したんだぞ!? あんなの余所ン家だったから良

 かったもののここでやられちゃ速攻押し倒しだ! …あぁ……でも大丈夫、僕はそんじょ

 そこらのボーイズラヴ・キャラじゃないからね、鋼の自制心を誇ってるんだ。勢いだけで

 君をものにしようとはしないよ」

 「ものにするとかしないとか考えてること自体が厭なんだよ……そんな目で見られている

 ことだけで屈辱だ」

 「レオナなら泣いて喜ぶだろうにな!」

 「僕はレオナさんじゃないからね。それ以前に女性ですらないし」
           
 あきもとしずか
 「ああーっ、女といえば秋元静香! あの女は本当にムカついたな!」

 「何だよ、急に? 大体君は女性の中でも特に彼女を嫌い過ぎだ。何がそんなに気に入ら

 ない?」

 「はっきり言おう。君の文章の書き方だ」

 「はあ?」
    
 みたらいきよし
 「文庫『御手洗潔のダンス』第十三版百十七頁からの記述だよ! ここだ! “私も以前

 彼女に気に入られ、ずいぶんと仕事を廻してもらった”――いいかい? “彼女に気に入

 られ”“ずいぶんと仕事を廻してもらった”だ! …この女はもう駄目だ、当時の彼女は

 明らかに君を狙っていたね!」

 「あっは、御手洗君……それはちょっと考え過ぎだよ。だって彼女は大変な美人でその上

 仕事も出来る聡明な女性だったんだぜ? そんな人がわざわざ僕みたいなのを相手になん

 かするもんか」

 「はははは愚かだな石岡君、君はもう少し自分のことを知っておかなければならない。そ

 れを言うなら超絶ハンサムで悪魔的な天才で探偵としても占星術師としても研究者として

 も非常に素晴らしい功績を上げている僕だって君のことが好きなんだぜ?」

 「何だ、結局は自分の自慢じゃないか」

 「違う! 僕が言いたいのは君にはそれだけの価値が、魅力があるのだということだ! 
                 
りょうこくん       さとみ
 考えてもみたまえ、君を愛したが為に良子君は身内を裏切り里美とかいう小娘は二十七歳
        
 くじ
 という年齢差にも挫けず君にアタックを続けているんだぞ!? 普通の男ならこんな持て方

 は絶対にしないものだ」

 「ちょっと待って、里美ちゃん……? ねぇ御手洗君、これって一体いつの設定なのかな

 ?」

 「さてね! 何で僕がここにいるのかもよく解らないがまあそんなことはコメディにおい

 てはどうでもいいことみたいだしね!」

 「良くはないよ」

 「――とにかく! これだけははっきり言っておこう、君は自分では気付いていないかも

 知れないがなかなかの美形キャラなんだ」

 「えっ、で、でも、それってどうなのかな……だって僕、あんまり作品中で女性に褒めら

 れた経験なんてないよ? (何でか未だに不思議だけど)大体君の方が女性の興味を強く

 引いているみたいだし」

 「ああ、やっぱり莫迦だ」

 「何がだよ、不愉快だな」

 「あのねぇ石岡君、よく考えてみたまえ、相手は女性なんだよ? 自分が世界一幸福で美

 しくなければ悲劇のヒロインのように思い込み異常な行為をも辞さないと言われているあ

 の! 女という不可解な生き物なんだよ? そんな女性がだ、男性的な外貌を持つ僕では

 なく君を選ぶなんてことをするはずがない」

 「何故だ?」

 「解らないのか? それは危険だからだ! 女性が! 自分より色白で華奢かも知れなく

 て世話上手で料理上手、しかも純粋で穏和でちょっぴりマヌケでおバカな人間を恋人にし

 たいと思うわけないだろう!」

 「ちょっと待て、最後のは何だ」

 「負けるだろう!? こんなのが自分の隣にいたら女としての自分の立場が危うくなってし

 まうだろ!? だから本気でなければ女性は君には近付かない! それは君が理想の女性像
    
にんき
 として人気の高い要素をほとんどその身に纏っているからだ! 君はミステリー界にもし

 “最も妻にしたいキャラクター”なんて賞があったら真っ先に一位になっちゃうタイプだ

 ぜ!? そしてそんな人と生活まで共にしている僕は“パートナーまで完璧”とまたまた皆

 さんに尊敬される。…まあ人が認めようが認めまいが事実夫婦みたいなもんだしね。肝心

 なことだけがまだだが」

 「その肝心なこととやらを実行しようとするなら君とは永遠にさよならだ」

 「――さて。ちょっぴり間に『ダンス』ネタが入ってしまって既に刊行順ではなくなって

 きている気もするが人生決まり事通りにいかないことも多いのでそんなことは気にしない
           
いほう  きし
 ! 次は、ええと、『異邦の騎士』事件!」

 「…………」
            
 きんきょうほうこく
 「…――と思ったが次! 『近況報告』!」
        
    
 「えっ、何だよ、選りにも選って何でそのタイトルを飛ばすんだ、気になるじゃないか、

 何だよ!?」

 「うるさいな、こんなネタで君に愛を語ろうと思ったら軽く数週間は経っちまう。これは

 今度だ! 『近況報告』!」

 「何だかとんでもない男と同居をしているような気がしてきた……」

 「気がするだけだ! あれはね、ミクロをダシにして君に触ったり抱き付いたりしていた

 っていうのは皆さんもう周知の事実だが、実はハイディの方にもちょっとした秘密があっ

 た。君さぁ、昔よく『これは僕のだ』とか『待て』とかいった英語を彼女に理解して貰え

 ず手に持っていたチーズなんかに喰い付かれていたよね」

 「あ? ああ……君に教えて貰った通りに発音しているつもりなのに、何故か毎回言うこ

 とを利いて貰えなかった」

 「当然だね! それは君がハイディに『これを渡してきて』って言うように僕が仕向けて

 いたんだから!」

 「まさか君は僕に嘘の英語を教えていたのか!?」

 「まあいいじゃないか、犬との楽しいコミュニケーションだ」

 「どこが!? 大体何でチーズなんか欲しがるんだよ、僕の残り物なんてどこででも食べて

 るだろ!?」

 「それはね、ちょっと違うんだよ石岡君。日常で手に入るものと密かに手に入れたものと

 では幸福度や充足感がまるで違うんだ……」

 「――ねえ御手洗君、この同居解消してもいいかな」
            
             しかばね
 「いいわけないだろう! 出て行くなら僕を殺してその屍を乗り越えるぐらいの覚悟がな

 いとね、僕は君を死ぬまで手放さないよ」

 「何だか僕の人生って一体……」
                               くらやみざか ひとく  
 「では次は僕があまりにも解り易いアプローチをしまくっていた『暗闇坂の人喰いの木』

 事件をはしょって『水晶のピラミッド』事件! これは実を言うとレオナが邪魔だった…

 …非っ常〜に邪魔だった! 『暗闇坂』もそうだったんだがね、『水ピラ』の時はスクー
          
 
 バの途中であの女だけ撒いてやろうかとも思ったよ。エジプトのロマンティックなホテル

 で僕は君とディズニーの『アラジン』ごっこがしたかったのに!」

 「しないよ。って言うか誰がアラジンなんだ」

 「僕に決まっているだろう! 君はジャスミンだ! アラビアンナイトなお姫様だ!」

 「君どっちかって言うとジーニーに近いよね」

 「ああ、もうそんなことはどうだっていい、とにかく『水ピラ』だ! ではこれはレオナ

 が馬車道へ事件依頼に訪れた夜のシーンから!」

 「ああ……僕が君に知性退化を指摘された思い出の夜の話だね……」
               
 みんな
 「そうだ、――そもそも! 何故皆この日の僕の態度をおかしいと思わないんだ!? 親友

 の犬を喪った、鬱病だった、確かにそれはそうだった! だが! だからってあそこまで

 酷く雨に打たれて帰ってくるか!? 小説の主人公(男、ハンサム)が雨に打たれていいの

 は切ない恋心に悩まされている時だけだ!」

 「そうかな……(って言うか誰がハンサム?)」

 「そうだよ! 僕は苦しかった……親友の犬を救えなかったあの時、僕は君にこう言った

 ろう? 『人間の死は何て楽なんだろうね、いくらでも厭な面を思い出すことが出来る』

 と。…だが君は例外だ、そりゃ厭な面はいくらでも思い出すことは出来るだろうが、それ

 以上にいい面が思い出され僕は生きていくのも難しい程苦しむに決まっている……!」

 「御手洗君……!(普段そういう面を少しでも見せてくれれば僕も見方を変えるんだが…

 …)」

 「僕はずっと君といたい、でも僕といることで君は駄目になってゆく……そんな苦悩があ

 の夜の状況を作り出したんだ。このサイトに置いてある『水ピラ』のイメージイラスト

 見てみろ! 物凄い居心地の悪さが伝わってくるだろう?」
※現在このイラストは展示されていません

 「いや、よく解らないな、ここの管理人はあまり絵が巧くないようだから」

 「まぁ元・イラストレーターがそう言うんじゃ仕方ないがね、とにかく僕と君は様々な感

 情からあの居心地の悪い空間に身を置いていた。――そこに! あの女が現れたんだ! 

 僕の人生の中で最も重要なことに頭を使っていた正念場に! 僕にとってはどうでもいい

 事件を引っ提げて突然あの女がやって来た! しかも持ってきたオルゴールの曲名が何と

 君……『エアジン』だったんだぜ!? ありゃ僕達二人の思い出の曲だ、誰にも穢されたく

 ない僕達だけの聖域だ!」

 「あっ…だから“赤ちゃん用のガラガラ”なんて言ったのか!」

 「そうだ、これであの夜の僕の態度の理由が解ったろう? ちなみに雨の中で僕を待って

 いたレオナに事件依頼を受けると言ったのは彼女の為じゃない、君の為だ。君があの女の

 為に下へと降りていったから、僕も降りないわけにはいかなくなった。だって相手はレオ

 ナだぜ? 僕達の関係を真っ向から疑い、内心僕の気持ちに気付いているのかいないのか、
                          
  まつざき
 とにかく君に激しい嫉妬心を燃やしまくっているあのレオナ松崎だ! あの女は君には何
                              
 げん
 をするか解らないからな、危険だと思ってすっ飛んでいったんだ。現に君、スクーバの時

 に二度も彼女に蹴りを入れられてるそうじゃないか。あんなのは偶然でも事故でもない、

 君が気に入らなくてわざとやったんだよ」
    
 なん
 「うわ、何か本当にそうだったらこれはちょっとショックかも……」

 「気を付けたまえ、君は間違いなくレオナに妬まれている。特に一九九七年冬以降の彼女

 には注意した方がいい。隙を見せるな、出された飲食物にも手を出すな、坑鬱剤を貰うな

 んてのは以ての外だ。冗談ではなく君はレオナにいつ殺されても不思議ではない程嫌われ

 ているんだから」
                       
 なん
 「しっ、知らなかった……! でも一九九七年って何の年?」
               
 とお かがや
 「詳しいことは誰かから『さらば遠い輝き』という作品の内容を訊くといい。僕はこの件

 に関してはあまり語りたくないんだ」

 「……ふうん……?」

 「そして『水ピラ』最大の謎と言っても過言ではない君がギザで拾った青い石の指輪! 

 レオナはあの指輪まで君から奪い取ってしまった!」

 「って言うかあれは僕があげたんだよ。何、いけなかった?」

 「いけないなんてもんじゃないよ! 君ねぇ、あれは僕から君への愛のプレゼントだった

 んだぜ!?」

 「えっ、嘘! 何で!? だってアル・マムーンの盗堀孔で拾ったんだよ!?」

 「だから! ああ〜、もう解んないかな! 昔ね、テレビのCMでやってたことあったろ

 う? 彼氏と彼女が二人で海辺を歩いてて、彼女が砂浜でダイヤモンドの指輪を拾って…

 …」

 「――ああ、あったあった! それ彼が彼女にあげようと思って置いといた婚約指輪だっ

 たんだよね」

 「そう、それだ! 正にそれを僕は君にやろうとしたんだ! 場所は君が憧れ続けたピラ

 ミッド! そして夜! 舞台は完璧だった! 君が『御手洗、僕ここで指輪を拾ったんだ

 けど』と言ったら僕はそこで『それは君へのプレゼントだよ……』と答えるつもりにして
        
 あと
 いた。そしてその後いいムードになったらオイシイ展開になるかも知れないと思ってレオ

 ナにリザーヴさせたのがあの如何にも君好みのロマンティックなホテル、メナハウス・オ
                   
    
 ベロイだったんだ。なのに君は――それを選りにも選ってレオナにあげてしまった! …

 女は敏感だからな、もしかしたらその指輪の贈り主を僕だと見抜いて君からあれを奪った

 のかも知れない」

 「考え過ぎだよ。……って言うかその話本当なのか? だってあの指輪ちょっとざらざら

 してたよ」

 「ありゃエジプトの由緒あるアンティークだからだ! 高価なものだったんだよ!」

 「サイズ合わなかったし……」

 「でも指には嵌ったろう!? そもそも僕が指輪のサイズなんか知るもんか」

 「……それもそうだね」

 「君があの指輪をしていた二日間、僕は君に“それは何だ”とは訊かなかったろう? そ

 の時点でおかしいとは思わなかったのか? どんなに鈍感な奴でも男が石の付いた指輪を

 してたら絶対不自然さに気付くぜ? そして僕のような性格なら、間違いなく君を揶揄う」

 「言われてみれば……!」
                                       
 さっ
 「それをしなかったのは僕が君にその指輪を外させたくなかったからだ。そして理由は先
 
 刻も言った通りその指輪の贈り主が他の誰でもない、この僕自身だったからだ。

  でも今や世界の名探偵となった僕にも解けない謎がここにある。君はどうしてあの指輪

 を二日間もしてたんだ?」

 「えっ?」

 「だって指輪だぜ? 慣れてなけりゃ女性でさえ結構煩わしさを感じるという、はっきり
              
 なん
 言って自分の指を飾る以外には何の役にも立たない金属の輪っかなんだぜ? しかもあれ

 には石まで付いていた。あからさまに女性用な上に下手すりゃ行動の妨げにまでなる、そ

 んなものを君は何故二日間も嵌めていた? 言っておくが君は指輪を拾い何となく指に嵌

 めて翌日レオナの為にそれを外すまでの間に少なくとも一回はバスを使っている」

 「…よく憶えてるなぁ……って言うかここまでくると怖いんだけど」

 「何故だ? 教えてくれ石岡君。君はあの指輪を付けたままシャワーを浴びたのか? そ
                          
 あと
 れはそれで妙だと思うが、しかし外してシャワーを浴びた後にまた改めて嵌め直したとい

 うのも余計におかしな話なんだ。君は別にそんなものには興味はないはずだろう? と言

 うか普通三十五歳の男はそういうことはしないはずだ多分。だって想像するとどうしても
                                  
 なん
 奇妙な光景なんだよ。名探偵の誇りを捨ててでも君に訊きたい、あれは一体何のつもりだ

 ったんだ?」

 「ええっ、言われてみれば確かにそうなんだけど……困っちゃったなぁ、急に訊かれても。

 そんなこともう忘れたよ」

 「また“忘れた”か! 君ねぇ、ギターの件についてもそうだったけど最近“忘れた”っ

 言やごまかせると思ってるだろ!?」

 「思ってないよ」

 「うう……しかし本人に忘れたと言われたらもう何とも突っ込みようがない……! 仕方
                     
めまい
 ない、この謎の解明は保留だ。じゃあ次、『眩暈』事件に移ろう」

 「あれ、まだ続いてたの?」

 「続いてるさ! あと四分の一はネタがある! だがそろそろ読んでる皆さんも疲れてき

 ている頃だろうからね、残りはサクサク進めるよ! さてあの事件当時、僕は君に盛んに
   
 はな
 犬語で話しかけていたと思うが――」

 「ああ……あれは結構哀しかったな、相手にされていないみたいで」

 「ところがどうして! 犬は僕が最も愛する生き物なんだよ!? あの時は僕も自分の感情

 を持て余していた……何といってもあれは僕が日本を出る少し前の事件だったんだからね、

 色々と悩むところがあり例の“役立たず”発言にも繋がった。…つまりあの犬語はそうい

 うわけだ。僕は犬語で君に本心を打ち明けていたんだよ!」

 「うわー、今度はそうきたか! しかもそんなの、解るわけないだろ!」

 「当たり前だ、伝えたいけど伝えられなくて、でも君への想いが止められなくてああした

 表現法になったんだから。ちなみにこれの類似例としては僕がよく口ずさんでいる外国語

 の歌等が挙げられる。ああ、あとこの事件の時に君を東大の標本室で待たせたのには訳が

 あってね、実は君を弱らせる為だった。『暗闇坂』の怪奇美術館で倒れた人だからね、今

 回も駄目だろうなと思って。はは、本当に気絶してくれたよね君。僕も肩を貸したり寝顔

 を眺めたりでちょっと楽しませて貰ったよ」
                      
かお
 「だから僕が気を失う寸前に君は取り澄ました表情をしてこちらを眺めていたって言うの

 か……!?」

 「普通は気絶しかかっている友人に向かっていきなり冷静に心理試験などしないだろう。

 常識で考えれば解りそうなものだが」

 「君から常識だの何だの聞かされてもなァ」

 「それからこの『眩暈』事件、僕にとっては別の意味でもなかなか思い出深いものだった。

 君も憶えていると思うが、あそこの登場人物は大半が同性間の性交の経験者だったろ?」

 「あっ、何だかマズイ話になってきたような気が……」

 「ねえ石岡君、文庫『眩暈』第十二版の三百九十五頁を見てくれたまえ、僕は彼等のホモ
                            
 はな
 セクシュアルを指摘した瞬間、酷く不自然なタイミングで君に話しかけていると思う。ず
  
  ふじたにくん はな             しゅ
 うっと藤谷君と話していたにも関わらず、この種の話になった途端突然僕は話の矛先を君

 へと変えたんだよ。『石岡君、起きてるかい?』なんてどう考えてもおかしな科白だ。起

 きてるに決まっているだろう!? まあそういう意味で言ったわけではなかったんだがね、

 それは何故だと思う?」

 「はあ……」

 「君の反応が見たかったからだよ! 男性間の恋愛に対し君がどういう意識を持っている
                                
ひょう
 のかを確認したかったんだ! しかし彼等の関係を『気持ち悪い!』と表した女性の意見

 を納得の出来るものだと君に話題を振った時、君はあっさりこう言った。『ああ、そうだ
                          
 ころ
 ね』――…僕が日本を離れようかなと思ったのは実はこの頃だったのさ……」

 「そっ、そうだったのか!?」

 「それだけじゃないよ、僕は今まで何度か君にプロポーズ紛いの発言もしてきた。『SI
                               
 やまのて
ゆうれい
 VAD SELIM』では一緒にアメリカで
暮らそうとも言ったし『山手の幽霊
』事件の

 時は二人で棲む一戸建を買おうとも言った。しかし君の返事は『一人でやれ、僕はごめん
                          
 なん         
  いえ
 だ』と『一生馬車道で暮らしたい』だった。……僕だって何の努力もせず勝手気儘に家を

 飛び出したわけじゃなかったんだよ……」

 「ごめん、御手洗君……(何で謝ってんのか解んないけど……)」

 「ああ、読者の皆さんの一部はまだ気が付いていないようだが本当は僕の方こそ君に捨て

 られやしないかと不安で不安で堪らない。実際にフラフラ行きたいところへ出掛けてゆく
                         
  よっぽど
 のは確かに僕かも知れないが、感情面でだけなら君の方が余程浮気性だからだ。
                 
かこつ
  僕が自分の気持ちを押し殺し用事に託けて君に短い電話をかけていることにも多分気付
               
  だいこんきぶん
 いてくれてはいない上に詳しくは『大根奇聞』という作品を思い出して貰えば解るが“あ
    
かずみ
 の石岡和己に辛辣な描写をされずに終わった”“ミステリー研究会”顧問の“大学教授”
                     
 おなぎ
 という僕に挑戦するかのような設定を持った御名木という男と親しくなっていることを知
                          
  いぬぼう
 った時はもう世界の終わりかと思ったよ。しかもこれがまた犬坊里美と同様にセリトス女

 子大の人間ときた! 神はどこまで僕に試練を与えれば気が済むんだろうね! 大学は日
                
   
 本国中に五万とあるというのに何故選りに選って僕が最も近付きたくないと思っているあ

 のセリトスに二大ライヴァルがいなくちゃならないんだ? ついでに言うなら御名木の名
                                   
 おん
 前も気に入らない! 普通“オナギ”といったら漢字は小さい名前の木だ! 御の字なん

 か使わない!」

 「ああ、それは確かにそうかもね、僕も初版で彼の名前間違えたし。ところで“あの石岡

 和己に辛辣な描写をされず”ってどういうこと?」

 「はあ!? 君の“可愛いカオして実は結構口悪い”説は既に周知の事実じゃないか!

 “見た目の美味しそうなケーキを食べたら実はマスタードの塊だった”ぐらいの衝撃だっ

 たと愛好家の間では評判なんだぜ? 特に男性陣に関しては特筆すべき美形でない限り悪

 口のオンパレードだ! もし意図せず書いているのならその方が問題だぞ? 君はよく自

 分を繊細な人間であるように書いているがそれは大きな勘違いだ」

 「…………」

 「まあ僕は慣れたがね、話を元に戻そう。とにかく僕は彼が気に入らない。ファンサイト

 のパロディ小説の注意書きに“御×石”という文字を見つける度に『これは“御手洗×石

 岡”なのか“御名木×石岡”なのか!?』とビクビクしなくちゃならなくなっただけでも奴

 は充分死刑ものだ」

 「そんなサイトへ行くなよ、しかも何読んでるんだ……」

 「ああ、僕達の間に子供でもいれば僕も君もある意味不安にならずに済んだのにな。そう
                              
 くつ
 いえば子供で思い出したが『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』事件を憶えている

 かい?」

 「うん、昭和五十七年のクリスマスの話だね」

 「そうだ。実はあの話はここの管理人曰く“もし二人の間に子供がいたら”ということの

 一つの答えだったのではないかと思っている。しかもあの子の名前をよく考えてビックリ
                   
おりの みき
 したよ石岡君――何と! 彼女の名前は折野美紀というんだ!」
          
 なに
 「知ってるよ。それが何か?」

 「気が付かないか!? これは潔と和己から音を一文字ずつ貰って付けられた名前だったん

 だよ!」

 「はあッ!?」

 「なっ、凄いだろう!? 世界中に女の名前なんてそれこそいくつあるか解らないのに彼女

 の名前は美紀なんだ! これはもう偶然なんかじゃないね、誰かの作為としか言いようが

 ない! 誰かとは誰か? それは神だ! 石岡君、やはり僕達は結ばれるべくして運命に

 引き合わされたんだよ! 星々もそう語ってくれている!」

 「…いや、確かに君と僕の相性が気持ち悪いぐらいにいいらしいことはちょっと人から聞

 いたことがあるけど……って言うか“君から見たら”完璧に近く理想の相性になるらしい

 けど。都合のいい時だけ占星術師に戻るなよ。大体名前なんて下足札みたいなものなんじ

 ゃなかったのか? そんな下らないこと言ってないで僕のジーンズ返せよ」
                   
こだわ            なんに
 「厭だね! 大体どうしてジーンズだけに拘るんだ、他のものに関しては何も言わないく

 せに!」

 「他のもの!? 他のものとはどういうことだ!?」
                      
 みたらいきよし  
 じだい まぼろし
 「おやおや、まだ気が付いていないのかい? 『御手洗潔、その時代の幻』参照、君は旅

 行先でいつも歯ブラシや髪のブラシを忘れうろうろと部屋の中を――」

 「おいちょっと待て、まさか君が盗んでるなんて言い出すんじゃないだろうな!?」

 「今まで気が付かなかったんだからもういいだろう?」

 「君はそんな人間だったのか!?」

 「――…とまぁ一つずつ挙げていけばこのようにキリがないが、詳しくはこのサイトにあ
 
  ふかよみじてん
 る『深読辞典』を読んでみていただきたいね。ここの管理人は忙しいくせに凝り性だから

 いちいちチェックが細かくて他にも原作には二人の怪しい行動がいっぱいだ! …さて、

 これだけ気になる描写を並べておいて疑うなと言う方が無理な話だろう。だが僕はホモじ

 ゃないぞ、この人だと思った相手が、君がたまたま男だっただけなんだからな」
     
 へん        すずきいちろう
 「そんな『変 −HEN−』の鈴木一郎のような言い訳されても……って言うかそんなこ
             
しまだ
 と言っちゃっていいの? 島田さんに怒られるよ」

 「何を言ってるんだ石岡君、彼はクールでダンディでちょっと小粋なロンリーメンなんだ

 ぜ? このくらいのことで怒ったりなんかするもんか」

 「いや、ホントにもうそのぐらいにしといた方が……」

 「彼だって解ってるさ! 僕に君の手料理や風貌について質問したかと思ったらとどめに

 サンタモニカのビーチにまで連れていったんだぜ!? あの人が僕達二人の関係を黙認して

 いないわけがない!」
     
 なん
 「はあ……何か頭痛がしてきた……何だかそんなはずないだろと思いつつ、でも思い当た

 ることはいっぱいあるんだよな……」

 「何っ、頭痛がする!? ――それは良くないよ石岡君、それじゃあ僕が診てあげるから、

 はい、そこのベッドに横になって♪」
                        
 みんなおんな
 「うっわ、何だよ、絶対やだよ!! 何でこの手の小説は皆同じオチなんだっ!!」

 「そりゃ読み手が安心するし書き手も楽が出来るからだろうよ。――さーあ石岡君、これ

 からこの長〜い間一人で育ててきた深い愛情を君に厭という程たっぷりと感じさせてあげ

 るからね……」

 「やだ――っ! 何でオッサンになってからこんな目に遭わされなくちゃならないんだ!

 やだやだ、誰か助けて――っ!!」

 「フッフフフフフ……」


        
 あと
  ――さて、この後二人はどうなったでしょう?

  続きは、貴方の心の中で……☆











コメディということで色々こじつけておりますが。
言葉のマジックとでも申しましょうか、こうして並べ立てると
あながち嘘でもないような気がするのだから
人の想像力って恐ろしいですよね(←お前が言うな:笑)。
まぁ皆さん、試しに≪異邦の騎士≫でも読み直してみて下さいよ。
御手洗さん、明らかに様子がおかしいですから。
そして何気に、オチが≪アンジェリーク≫(笑)。



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