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【 ≪異邦の騎士≫のネタバレを含みます 】 ‖ 上記注意書きに危険を感じられた方はこちらからお戻り下さい ‖ |
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研究論文 004-1 同 性 愛 … ? どう せい あい … ? |
最近では“知性の退化現象”どころか“女性化”が進んでいるようだと噂される事件作 いしおかかずみ せい 家・石岡和己。今回は彼を話題の中心に主要キャラクターの“性”について考えてみたい と思います。 それではまず、石岡に“女性”を感じさせた描写の一例を御覧下さい。 ――「どうだった?」 みたらい と石岡が御手洗に尋ねていた。御手洗が説明していた。 しっそう ししゃ *事件の様子について/≪疾走する死者≫より ――「あなた男じゃないの? 腹たたないの? いくじなし! 臆病者!」(略) 俺は半裸にされた状態のまま、呆然と部屋に立ち尽くした。 りょうこ いほう きし *浮気をして帰ってきた良子に服を破られて/≪異邦の騎士≫より ――子供用の玩具にしても、もう一度砂の上に捨てるのも惜しいように思われ、私はなん となく小指に填めたまま、彼方の舗装路脇に停まっているタクシーに急いだ。 すいしょう *エジプトで青い石の付いた指輪を拾って/≪水晶のピラミッド≫より ――先述のような、まるで自閉的な老婦人のような日々のうちで、私は突然一人の若い女 性の訪問を受けたのだった。 あと りゅうがていじけん *御手洗が日本を去った後の近況について/≪龍臥亭事件≫より さとみ ――ああもう里美の顔をまともに見ることが出来ない、などと十代の乙女のように思い悩 んでいるのだった。 *里美に突然キスをされて/≪龍臥亭事件≫より ――彼と暮らすことで、私は男としてすっかり駄目になった。御手洗もそのことを言い、 かなり気にしていた。 あと *御手洗と同居を開始した後の性質の変化について/≪龍臥亭事件≫より ――これが夫婦なら、さしずめ家庭内別居というやつだ。 あと *御手洗と喧嘩をした後の冷戦期間について/≪SIVAD SELIM≫より ――私は黙っていた。その時考えていたのはこんなことだ。料理が上手になるより、そっ ちの方がいいんだろうか――。 さいご *里美に御手洗の為にもなると英会話を勧められて/≪最後のディナー≫より ――私は別に、ホモ小説が絶対的に嫌いというわけではないのだが、また道徳観など持ち 出す気も毛頭ないし、そういう趣向の小説にも、文学として力のあるものが存在する ことは承知している。自分がホモだと言われても私は大丈夫ではあるのだが、それは ホモの「男役」に言われた場合である。これは自尊心を保っている男性はきっとみん なそうだと思う。ホモの女役――「受け」とか言うそうだが――、そういう体質の人 間に自分が描かれた際、ストレートの男がどれほどひどい屈辱感と闘わなくてはなら ないか、女性たちは決して理解しようとしない。これが平気なんだろうと推察するの は、書き手の側が女性だからである。[※敢えて注目] みたらい じけん *御手洗パロディの内容について/≪御手洗パロディ・サイト事件≫より ――「薩摩芋のオレンジ煮。ふうん、鯖の味噌煮とか、そういう庶民的、家庭的な料理が お好きなんですかね」 「うん、ぼくは基本的に和食しか作れないんです。でも最近は、イタリア料理で簡単 なの、いくつか好きなのがあります。鯛のカルパッチョとか……」 「うちに婿に来てください、必ず幸せにします」 「え? ……それ、質問ですか? もしいいお話なら、よろしくお願いします」 「いいお話ってどういうのですか? 北鎌倉で、裏にゴルフの練習場があるような家 とか」 「いえいえ、人間関係が優しいならという……。ぼくは意地悪での鍛錬とか、家庭内 冷戦みたいなの駄目ですから」 しまだそうじ し いしおかせんせい *島田荘司氏に得意とする料理を訊ねられて/≪石岡先生、ロング・ロング インタ ヴュー。≫より これでもう充分だという方、もっと気になる描写を知っているという方、またはこれだ けでは何とも言えないという方、それぞれいらっしゃるかと思いますが。確かに石岡には せんせいじゅつ “男性にしては珍しいな”と感じさせる言行が数多く目立つような気がします。≪占星術 さつじんじけん なな やしき はんざい 殺人事件≫や≪斜め屋敷の犯罪≫の頃にはあまり気にならなかった性質である為に“途中 からキャラクターが変化した”という意見もありますが、その件については≪異邦の騎士≫ が何よりも最初に書かれた作品だということなので、個人的意見としては“突然人が変わ った”という風には考えていないということを前提にこの先のお話を続けさせていただき ますね。 ――しかしそれにしても≪龍臥亭事件≫(要するに御手洗が日本を去った頃)以降の彼 には男性的な覇気が感じられない。(基本的に)御手洗に楯突いている石岡を好みとする 私からすればこれは由々しき一大事です。このままでいいと思い作品を読み進めているわ こせいは げいじゅつかふうやさおとこ じょせい も けでもないのですが、さて≪個性派ハンサム VS 芸術家風優男、どちらが女性に持てる さいちゅう か?≫というタイトルで考察を行なっている最中に浮上した疑問こそが今回のテーマです。 では前回のものと重複してしまいますがここでもう一度石岡和己のパーソナリティーに ついて振り返ってみましょう。 ◆容姿◆ (女性、或いは子供用と想像される指輪が容易に入る細い指、薄い胸等 の情報から見てどう考えても)華奢、色の白い純日本風な美形。髪は少 し長めの直毛で、清潔感溢れる儚気な印象の男性 ◆性質◆ 世話焼き、家事得意、綺麗好き、器用、遣り繰り上手、家庭的、献身的、 純粋、素直、一途、誠実、内気、胃弱、貧血気味、好奇心旺盛、(なの に)怖がり、癒し系、心配性、依存心が強い、単純、ちょっぴり抜けた ところがある、等々…… 前回は“世の一般男性が求める理想の花嫁像”という表現をさせていただきましたが、 これは同時に“(一部の)同性愛者の理想像”であるとも言えそうです。新宿二丁目の辺 りをふらふらしていたら即ナンパされちゃうタイプですね(逃げようにも非力そうだし。 簡単に犯されそう……:禁句)。――とまぁ、そんな自分を自覚しているのかいないのか。 ここで注目していただきたいのが以下の記述です。 ――しかし私は西荻窪のアパートをしばらく解約せずに残しておき、御手洗がどうしても 譲らない場合、西荻窪の実家に帰るという脅しをちらつかせながら、この一大革命を 断行したのだった。 きんきょうほうこく *石岡が御手洗の所持品を大半整理、処分したことについて/≪近況報告≫より ――「ホテルへ入るかい? それともピラミッドを見る?」 「ピラミッド!」 *エジプトにて、タクシーの中での御手洗との会話/≪水晶のピラミッド≫より ――それで私は御手洗の体をもう一度床に戻し、先にガラスの破片を掃除することにした。 めまい *御手洗が暴れ散らかした部屋を自発的に片付けながら/≪眩暈≫より ――「君も今夜から、ぼくが作った鯖の味噌煮は諦めてもらおう」 *御手洗との口論中に/≪SIVAD SELIM≫より ――和食ならたいがいのものが作れたので、鯖の味噌煮とか、秋刀魚の塩焼きなどを作っ てやると、御手洗は私などの手料理でも嬉しそうに食べていた。 くつ *御手洗との同居について/≪セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴≫より これは女性にこそ、何が言いたいのかより良く御理解いただけるのではないかと思うの ですが。…一体いつからなのでしょうか、石岡は女性的表現や手段を用いて御手洗を翻弄 し、誘惑しています。拗ね方も甘え方も生活におけるフォローの仕方も――これでは本当 に御手洗には妻がいるのと変わりません。 そんな石岡を一人日本に残し遠い異国に暮らす御手洗は、このような彼の在り方を一体 どう考えていたのでしょうか? 予測としては、以下の例が考えられます。 1:御手洗は女性的な性質を色濃く見せ始めた石岡に対し嫌気がさし、彼と離れる ことを望んでいた。 2:(女性ではないが故に)“完成された女性”として存在する石岡を理想のパー トナーであると考えていた。 3:本来厭わしく思うはずの性質の持ち主であるのに、何故かそんな彼に惹かれる ものを感じ激しいジレンマに陥っていた。 そしてもう一つ。以前から私の胸中で(重大なる不安とし)存在している可能性がある のですが、それは御手洗が“真の怒りと哀しみを教えてくれた人間とし特別視していたの いしかわけいすけ は実は石岡和己ではなく石川敬介だったのかも知れない”ということです。つまり“石岡 和己は石川敬介の代わりとして御手洗に求められていたのではないか”という考え方…… なん ですね(…あー……でもこれは何か微妙だし哀しいな……カズミストの皆様、申し訳あり とお かがや ません:涙)。…と、こういう寂しい想像をしてしまったのは問題作≪さらば遠い輝き≫ の描写、御手洗(ハインリッヒ)の告白が“石岡ではなく敬介に対するものであるように 感じられたから”なのですが――まあこれは極端な言い方で(愛着等の事情も含めて)間 違っても“御手洗が石岡をどうでも良い人間だと考えていたとは思えない”のでくれぐれ も誤解はしないでいただきたいのですが――要はここで問題にしたいのは御手洗が“強気 の石岡”と“弱気の石岡”のどちらをより気に入っていたのか、ということなんです。 とは言ってもまぁ、ここのところは当の本人にしか(或いは本人にも)分からない感情 ですので予測の立てようもありませんが。一つだけはっきりと言えるのは“○○な性質の 人間だから気に入っている”というのではなく“石岡和己だから気に入っている”――つ まり強気だろうが弱気だろうが無関係にその人間自体を気に入っている――というのが正 解なら、それはそれでもうどうしようもないということぐらいでしょうか(何がどう“ど うしようもない”のかは私の口からは言えません……。←今更!?:笑)。 きよし ちなみに御手洗潔という人は生い立ちや信条、その性質等から考え俗に言う“浮気”と いうものが出来ない男性なのではないかと思われます。仮に肉体的な交渉を決まった相手 以外と結ぶ状況にあっても心は絶対に偽れない。万一(万一でもないな……:笑)友人と 性愛を含んだ意味で関わることになれば、それはもう誠実な恋愛関係を築くことを誓って 下さるに違いありません(その代わり独占欲の方も強そうですけどねぇ:苦笑)。 ただ、友情を持続させつつ(最終行為にまでは至らないまでにしても)肉体関係を結ぶ ――これは実際には口で言う程単純なものでも簡単なものでもないはずですし、そんな事 情も含め“石岡がもし御手洗なしでは生きていけない人間”になってしまえば(また同時 に“御手洗自身が石岡なしでは生きていけない人間”になってしまえば)この先大いに困 った事態に陥ることは避けられません。今でも“依存”という意味では離れるのが少し遅 すが すが 過ぎた感はありますしね。――だから、縋り縋られる関係になる前に御手洗は姿を消した のでしょうか。 さて、ここで話題を石岡と彼を巡る女性達について切り替えます。 長々と前に述べた石岡和己という男性の性質がここにも関わってくるのですが、実は御 存じ石川良子という女性が、非常に興味深い言葉を遺しこの世を去っているんですね。 ――ホステスの生活なんか長く続けていると、男は全員、グロテスクな性欲のかたまりに しか見えなくなります。そんな男たちに対して愛だとか恋だとか、そんな気持ちが自 分の中に生まれてくること自体、全然想像もできなかった。(略)でもあなたは、今ま で私が会ったどんな男とも違いました。 *良子が敬介に宛てた手紙/≪異邦の騎士≫より いぬぼう せい そしてまた犬坊里美も性に纏わる因縁の深い貝繁村という土地で育ち、男性に対して多 少の負の概念を持っていたことが予想される女性です。 と――こうなると。この二人の女性にとって“石岡和己程安心して付き合える男性はい ないのではないか”ということが言えそうですよね。 もしかしたら≪異邦の騎士≫は石川良子(女性)が石川敬介(の女性部分)を、御手洗 潔(男性)が石川敬介(の男性部分)を求めたお話だったのかも知れません。 ちなみに多くのカズミストにとっては気になる存在である里美について付記しておくと、 だんじょ 私自身は二人が今後男女の仲になることはないのではないかな、と考えております(…と 言うか、そう信じたい)。石岡は自らの信じる“最も男性的な部分”で良子を愛し守ろう としましたが、里美に対しては“思春期の少女が求めるような友情”を持ち彼女に接して いるようにしか見えないからです(中学生ぐらいの少女の多くは親友に対する独占欲が非 常に強く、それが自分から離れること、去ることを時には異常に嫌い、畏れます。それを 維持する為なら、場合によっては唇くらいは赦すかも)。どんなに良子と里美を重ねてみ ても同じ人間では絶対に有り得ないわけですから、もし御手洗が自分の元に戻ってくれば 彼女とは自然に疎遠になるのではないでしょうか?(って言うか、希望:笑) ――ところで“弱い魂を救いたい”と言っていた御手洗に“一人の魂を守り生きる”と いう選択肢はやはり赦されなかったんでしょうかね? …いや、男性としての“意地”は まだ喪失していないようなので、もし“依存させる者、する者という関係を強いれば”逆 に石岡は反発するかも知れないなと思っただけなのですが……(ええ、だから希望ですっ てば:笑)。 |
2002. WINTER |