研究論文 003-1

個性派ハンサム vs 芸術家風優男、
女性に持てるのはどちらか?

こせいはハンサム バーサス げいじゅつかふうやさおとこ、じょせいにもてるのはどちらか?





   みたらいきよし
 ◆◇御手洗潔


 ――御手洗潔という男は、見ようによってはあれでなかなかいい男なのかも知れない。私

   には少々個性が強すぎてハンサムとは到底思えないが、背が高いのは確かである。女

   性にもいろいろタイプがあろうから、たまには奇蹟が起こり、彼が女にもてても不思

   議はないのかもしれない。
    
 すうじじょう   
いしおかかずみ
   
≪数字錠≫より/石岡和己の独白


 ――もじゃもじゃの髪をして、やはり彫りの深い顔だちをしている。いい男には違いない

   のだが、妙にひと癖あるような、人を見下したような表情をする男で、僕は好きにな

   れなかった。
   
  しっそう  ししゃ    くまのみどたくみ
   
≪疾走する死者≫より/隈能美堂巧の独白


 ――御手洗は、まだはれぼったい目をして時折あくびをし、もじゃもじゃの髪を、ぼりぼ

   りとかいていた。しかし、彼は一種の磁力を発散しているように、僕には思われた。

   ちょっと形容がむずかしい風変わりな魅力を、僕は彼から絶えず感じた。初対面の時、

   ひと癖あるように思った顔だが、今や僕には、見たこともないハンサムにみえた。

   
≪疾走する死者≫より/隈能美堂巧の独白


 ――今日の御手洗はえらくいい男に見えた。いや、考えてみるとこの男、外見に関しては

   悪い要素は何もないのだ。初対面の印象が悪過ぎたのである。あの時は起きたばかり

   で、顔中のあちこちが腫れているような印象だった。

   こうしてしげしげと風貌を観察すると、いささか個性的にはすぎるが、日本人離れの

   した雰囲気である。鼻筋は細く通っていて高く、少しこけた頬、面長な顔の輪郭に、

   柔らかいくせっ毛。なんだ、案外いい男じゃないかと今さらながら気付く。何だか裏
                       
  りょうこ
   切られたような思いだ。足も長いし、背も高い。良子に会わせるのは少し不安な気も

   してくる。
    
 いほう  きし     いしかわけいすけ
   
≪異邦の騎士≫より/石川敬介の独白



 ◆◇石岡和己


 ――色の白い、いかにも芸術家然とした若い男が、こっちに向かって頭を下げる。

   
≪疾走する死者≫より/隈能美堂巧の独白


 ――「この男が刑事に見えるか? 私の秘書だ」
         
 いぬ    あおばてるたか
   
≪ギリシャの犬≫より/青葉照孝の科白


 ――ためしに左手の小指に填めてみると、私の指はずいぶん細い方だから、ぴったりと填

   った。むろん女性用だろうが、子供用かもしれないな、と私は思った。
    
すいしょう
   
≪水晶のピラミッド≫より/石岡和己の独白


 ――「キヨシははっきり言った。青年はとても清潔な顔をしていたと。たいてい白いワイ

   シャツを着て、薄い胸が頼りなさそうに目の前で動いた。そして何かをするたび哀願

   するような目が自分を見、その度にたまらない気分になった」
       
 とお かがや
   
≪さらば遠い輝き≫より/ハインリッヒ・フォン・レーンドルフ・シュタインオル

    トの弁による御手洗潔の科白


 ――「石岡君の風貌について教えて下さい(略) 日本型の、やわらかな風貌の美形である

   ことを期待するといった声が多いんだけど……」

   「ああ、そう言ってもいいでしょうね」[※但し、不機嫌な発言]
    
 みたらいきよし  
 じだい まぼろし    しまだそうじ
   
≪御手洗潔、その時代の幻≫より/島田荘司、御手洗潔の会話


 ――目の下に袋があるなどという自虐をどこかに書いていたが、この日はそんな様子もな

   く、少し長めの髪をたまに吹く風になびかせ、白く歯をいっぱいに見せて、始終はに

   かんだように笑っていた。その様子は誠実そうで、人にはだまされる専門に生まれ付

   き、だますなどという回路は脳裏にない人、といったふうに見えた。
    
いしおかせんせい
   
≪石岡先生、ロング・ロング インタヴュー。≫より/島田荘司の独白



  ……とまぁ、いきなり女性読者の妄想を逞しくさせるような描写をいくつか抜き出して

 みましたが。外貌だけに注目してみると、お二人はこうした印象を持つ男性のようです。

 どちらも年齢を感じさせない色男。こんな方達が二人セットで並んでいたら、そりゃあ周

 囲の女性達も黙っちゃいないですよね。尤も、ここまでバランスが良ければ自分がどちら

 かを選んでアタックするよりお二人が常に行動を共にすることを切望する方も中にはいら

 っしゃるのでしょうが……(って言うか、それは私だ:笑)。



  最近では今まで詳細の明かされていなかった石岡の風貌についても友人等の証言からぽ
                  
  じゅうななねん
 つぽつと聞かせていただけるようになり、十七年近くもの間“色白の芸術家然とした男”

 という描写のみに多くの夢と希望を抱いていたカズミストのお嬢さん方はほっと胸を撫で

 下ろされていることだろうと思います。



  ――さて、ここからが本題(笑)。



  今回のテーマは“御手洗と石岡ではどちらがより女性に持てるのか”ということなので

 すが――ではまずここで、下の原作抜粋文を御覧下さい。



 ――「へえ、なかなかいい男っぷりじゃないかい? (略)あんた[※石岡]もまあまあだ

   けど、私はこっち[※御手洗]の方がいい」
    
 くらやみざか ひとく  
   
≪暗闇坂の人喰いの木≫より/千夏の科白



                             
 ほか
  このシーン、再現してみていただけましたでしょうか? その他、思い当たる原作本を
                     
ふきたやすこ      まつざき
 いくつか探ってみたのですが、≪数字錠≫の吹田靖子といい御存じ松崎レオナといい、ど

 ちらかと言うとやはり御手洗の方が女性達の興味をより強く引いているらしいという印象

 が目立ちます(石岡が友人を立てる為にエピソードを選んでいる、という深読みはこの場

 では無視して下さい)。



  勿論外見だけが全てではないけれど“(一部の女性には)初見から好かれることもある

 御手洗”と“二の次にされてしまう傾向の見られる石岡”。では“一般的に見て御手洗の

 方がいい男なのか?”とついイコールで結び付けてしまいそうになるところではあるので

 すが――。



  安易に結論付けてしまう前に、お二人の外貌についての特徴をもう一度比較してみて下

 さい。



 ◆御手洗潔◆ 高身長(足が長い)で痩身、肌の色は浅黒く、エキセントリックな

        ハンサム。癖っ毛で、程良い野性味を帯びた逞しい印象の男性

 ◆石岡和己◆ (女性、或いは子供用と想像される指輪が容易に入る細い指、薄い

        胸等の情報から見てどう考えても)華奢、色の白い純日本風な美形。

        髪は少し長めの直毛で、清潔感溢れる儚気な印象の男性



  ――…はい、言わんとしていることはもう御理解いただけましたね?(笑) 外見だけを

 見ても石岡は充分“女性に敬遠(或いは嫌悪?)され易い要素”をその身に纏っています。
                 
 けっ
 これはどうにもいただけない。いえ、決して悪い意味で言っているわけではないのですが

 ――



  この風貌に彼のパーソナリティーを付け加えてみるとどうなるでしょう。



 ◆世話焼き、家事得意、綺麗好き、器用、遣り繰り上手、家庭的、献身的、純粋、

  素直、一途、誠実、内気、胃弱、貧血気味、好奇心旺盛、(なのに)怖がり、癒

  し系、心配性、依存心が強い、単純、ちょっぴり抜けたところがある、等々……



  我ながらまとめてビックリ、もう最悪ですね(苦笑)。こんな男性が“(御手洗が言うと

 ころの)女性”に持てるわけがない! そりゃ恋人になんかしたくないはずですよ、これ

 って世の一般男性が求めている“理想の花嫁像”そのものじゃないですか。(ある意味で)

 こんな完璧な人間が隣にいたら“それを必死で演じている本当の女性自身”が女性として

 の立場を失ってしまいます。しかも彼は天然なわけですからこれはもう太刀打ちの出来る

 相手ではありません。寧ろ“如何に自分を可愛らしく、美しく見せようかと日々考え続け

 ているような女性”にとっては羨望の対象どころか嫉妬の対象にすらなり得ます(ちなみ

 にある意味“本物の女性ではないからこそ理想の女性像として存在する”石岡をパートナ

 ーとして選んだ御手洗に対しては色々言ってやりたいことがある。長くなりそうなので今

 は発言を控えておきますが:笑)。



  つまり“男性的な男性を好みとしない”、或いは“誠実さや繊細さをパーソナリティー

 とする男性を好む”女性以外には、彼は真剣な交際を望まれにくいと思われるのです。こ

 れも魅力が引き起こす結果なのでしょうが、恐らく実際に持てるのは石岡より御手洗、と

 いうことなんでしょうね。





2001. WINTER



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